「高級有料老人ホーム」でも虐待は起こり得る 介護の質は「施設長の経験」に左右される

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極端な話、できるだけ入所者を増やして利益率を上げようとすると、土地の面積に対して建物の延べ床面積を最大化しようとするのです。すると、フロア数の多い施設になります。そのフロアごとに介護職を配置すると、人員が増えて採算が合わなくなりますから、3フロアに夜勤で介護職が1人というような状況が生まれます。

ナースコールが鳴れば必ず駆け付けなければなりませんから、3つのフロアを夜通し行き来することになります。その結果、介護職のストレスは相当なものになります。虐待など介護施設で起こる事件や事故は多くの場合、このような構造的に生じる介護職への過度なストレスが背景にあるのです。

100%虐待は起きないといえる介護施設はない

どんな介護施設でも虐待が起きる可能性は必ずあります。施設の組織構成に問題があることも背景の1つです。

たとえば、「こんな人員配置は危険」などといったことを論理的に言語化して上司に伝えて改善を求めるとか、または介護職のストレスマネジメントをするといった能力が事業主や施設長に乏しいのです。現場での実感として、各施設で提供される介護の質は施設長の能力に委ねられている状況です。

施設長といっても、ベテランの20年選手もいれば、介護業界に入ってまだ1年という人もいます。単純に介護現場の経験が長ければよいというわけではありませんが、あまりにも経験がない人が施設長を行うことによる弊害も多々あります。介護事業者による事業拡大が続いている中で、若く経験の浅い人が施設長を任されることが増えてきている日本の介護業界において、さまざまな問題が起きる可能性があります。たとえば、

① マネジメント経験がない人が施設長に就任する
② 施設長の役割が何かわからない
③ スタッフから信任を得られない
④ 現場のマネジメントができない
⑤ 上司からは数字を求められ、部下からは働きやすさを求められる
⑥ 責任感が強いほどストレスを溜めやすい
⑦ 退職する

といった不幸なサイクルが、繰り返されています。

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大手介護事業者だからといって安心というわけではないのが介護業界の特殊性です。

介護の質は施設長次第で左右されてしまいますから、利用者の方が施設を見学して施設長もよさそうな人だからというので入居しても、施設長が異動すると途端にダメな施設になることはよくあります。なんでもそうですが、よくするのは難しく、悪くなるのは簡単です。

マネジメント経験が浅い人(現場経験は長いがマネジメント経験はない人や介護業界に入って5年未満の人など)が施設長にならざるをえない環境が問題の本質だといえます。それはもちろん、事業者の問題もありますが、それだけでなく、介護業界全体の構造的問題によっても生じています。ここをどう改善するかが求められているのです。

武内 和久 元厚生労働省官僚・政策アドバイザー

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たけうち かずひさ / Kazuhisa Takeuchi

1971年生まれ、福岡出身。東京大学法学部卒業後、厚生省(現・厚生労働省)に入省。在英国日本国大使館一等書記官、厚生労働省大臣官房、厚生労働省医政局などを経て、福祉人材確保対策室長を最後に退官。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社アドバイザー(厚生労働省参与、東京大学非常勤講師)などを歴任。共著書に『投資型医療』(2017年、小社刊)、『公平・無料・国営を貫く英国の医療改革』(2009年、集英社新書)、『2025年、高齢者が難民になる日』(2016年、日経プレミアム新書)など。

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藤田 英明 CARE PETS 代表取締役

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ふじた ひであき / Hideaki Fujita

株式会社CARE PETS代表取締役(犬や猫の訪問介護・看護やペットシッターサービス)、株式会社けあらぶ代表取締役、医療法人杏林会八木病院理事、株式会社Caihome取締役(介護と学童保育の融合)、株式会社トリプルダブリュー顧問(排泄予知IoTの「Dfree」を開発)。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業(専門は精神障害者支援)後、社会福祉法人の特別養護老人ホームに就職し介護職員兼生活相談員として着任。その後夜間対応型デイサービスで起業し、株式会社日本介護福祉グループを設立、全国850事業所を開設。内閣府規制改革会議に参画(介護・保育ワーキンググループ)。著書に『社会保障大国日本』(幻冬舎)がある。

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