日本一のヒガンバナ群生「巾着田」の誕生秘話 9月30日まで「曼珠沙華まつり」が開催

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2018年9月17日に除幕式が行われた天皇皇后両陛下行幸啓記念碑(筆者撮影)

そして、2017年9月20日には天皇皇后両陛下が、私的旅行の旅行先として日高市を訪れ、高麗神社を参拝された後、曼珠沙華が咲き誇る巾着田を散策された。この様子は大きく報道されたので、記憶している人も多いだろう。駒井さんは「数ある観光地の中で、旅行先として日高市を選んでいただけたのは、大変光栄なこと」と話す。今年9月17日には、両陛下の訪問を記念した行幸啓記念碑の除幕式が行われた。

新たな課題も

巾着田の知名度が上がる一方、新たな課題もある。観光客の客足が曼珠沙華の開花時期に集中することから、春の菜の花、秋のコスモスなどのPRにも力を入れてきた。しかし、上述したように巾着田は「伏流水の取水口となっているため、肥料を与えることができない。そのため、土がやせてしまい菜の花も針金のようにしかならない」(駒井さん)という状況になっている。今後は、「(曼珠沙華以外の花に関しては)毎年植えることは難しく、様子を見ながら進めざるをえない」(駒井さん)という。実際、今年の秋はコスモスは植えられていない。

また、巾着田周辺は花や清流などの自然環境のみならず、飛鳥時代に朝鮮半島から渡ってきた渡来人が居住した中心地という歴史的にも重要な意味のある場所なのだが、巾着田を訪れてもそういった歴史をうかがい知ることができないのも課題かもしれない。

『続日本紀』には、西暦668(天智天皇7)年に滅亡した高句麗からの渡来人のうち、東国に住む1799人を716(霊亀2)年に新たに設置した高麗郡に移したとある。その高麗郡の中心が巾着田周辺の高麗本郷であり、2016年には高麗郡建郡1300年記念祭が盛大に行われた。

ちなみに、天皇・皇后両陛下が訪問された高麗神社の祭神は、高句麗の王族で高麗郡の郡司にも任命された若光で、隣接する聖天院には若光の墓とされる石塔もある。史料が少ないかもしれないが、土地の歴史に関する体系的な情報発信がなされると、観光により厚みが増すように感じる。

なお、最大の課題は曼珠沙華開花の時期に起きる交通渋滞かもしれない。今年9月18日に筆者が訪問したときは、平日にもかかわらず、お昼前後は巾着田駐車場への入場待ちの車を先頭に、県道15号が市役所方面に2キロ近く渋滞していた。片側一車線道路なので追い越しも難しく、一般車も巻き込んでの渋滞が起きているのだ。

実は西武線で池袋から巾着田の最寄り駅である高麗駅までは約1時間しかかからない。また、高麗駅から巾着田の入口までは徒歩でわずか10分程度と、巾着田は都心からも公共交通機関で意外なほどアクセスが便利な立地だ。特に休日は、マイカー利用を控えることをお勧めしたい。

森川 天喜 旅行・鉄道ジャーナリスト

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もりかわ あき / Aki Morikawa

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)。2023年10月~神奈川新聞ウェブ版にて「かながわ鉄道廃線紀行」連載開始

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