「次の金融危機の火種は日銀」説は正しいのか 「バランスシート拡大への批判」はかなり曖昧

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大きく増えていた中国の債務拡大が2017年から落ち着いていることが一因とみられるが、実際には過剰債務懸念のピークは2年前であり、すでに終わった材料と言えるかもしれない。

債務拡大の一方で資産も増加、「危機」に対する耐性も

さらに、バランスシートのうち債務側の数字の変動だけで、経済全体への影響を考えることは妥当ではない可能性がある。民間や政府が債務を増やす過程では、経済成長率が高まり、資産も相応に増える。そうであれば、経済ショックに対する耐久性が保たれる。これまでの金融緩和によって民間や政府の債務が増えても、その一方で、企業利益の拡大や資産価格上昇などで各経済主体の資産価値が高まる。そうした意味で、債務が増えたことだけに注目する見方は、必ずしも妥当ではないと考えられる。

別の観点では、中銀が負債を膨らませバランスシートを拡大させることが、大きな問題になるとの議論もある。つまり、将来、利上げを行う段階では中銀は保有する債券価格が大きく下落することで大幅な赤字を計上する(場合によっては債務超過に陥る)可能性があるからだ。

しかし、中銀が備える「マネー創出機能」を考えれば、中銀自身が支払い不能に陥ることがないため、中銀による経常赤字計上は少なくとも経済的には問題になりえない。中銀の債務拡大そのものが将来の大きな問題を引き起こす可能性は低い、と筆者は考えている。

以上、中銀による金融緩和の弊害に関する議論の根拠は、いずれも確かではない。むしろ、過去20年以上もデフレが続いていた日本において、2013年以降、日銀が行ってきた金融緩和政策は、経済正常化のために必要不可欠な政策だったように思われる。

脱デフレを完全に実現するためには、さらなる金融財政政策の強化が必要なのではないか。金融市場の一部では、最近の政府首脳などの発言などから「安倍政権は2%インフレ実現を重視していない」とみる向きもある。だが、今後安倍政権が「2%インフレを目指す」とした政府・日銀の共同声明を変更する可能性は低い。こうしてみていくと、根拠が曖昧な金融緩和の弊害がメディアで散見されているうちは、株価急落などの金融市場の混乱を招くような危機が訪れる可能性は、むしろ低いのかもしれない。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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