すでに2015年末から利上げを始めているアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は、2017年末から緩やかにバランスシート縮小を始めている。ECB(欧州中央銀行)も2018年末に量的緩和拡大をやめる予定だ。一方、日本銀行(日銀)においては国債購入のペースはかつてより減ったものの、現在の金融緩和の枠組みが続く中でバランスシート拡大は続く見通しである。そうした中で、日銀による金融緩和継続の弊害に対する指摘も増えているように思われる。
中銀による金融緩和の弊害が懸念される背景には、極端な政策を行うとその「しっぺ返し」が大きくなる、という漠然とした不安が影響しているのかもしれない。たとえば、2008年に起きた世界的な金融危機の遠因として、「FRBによる2000年代半ばまでの金融緩和長期化がバブルをもたらした」との見方がある。日銀による「異次元」と称される大規模な国債購入や、ETF(上場投資信託)などのリスク資産購入を含め、一連の金融緩和政策の「しっぺ返し」が来るという懸念を抱く論者が多いようにみえる。
だが、これまで大きく膨らんだ中銀のバランスシートが、将来「大きな弊害」または「新たな危機」を招くという懸念は、実際のところ、どの程度妥当なのだろうか。
FRBは順調に「出口戦略」を実行中
まず、先に紹介したように、FRBは2017年からバランスシート縮小を始めているが、アメリカの債券市場において大きな混乱は起きていない。バランスシート縮小を含めた引き締め政策は、そのペースが極めて緩やかであり、また市場との対話がスムーズに行われている。経済実態に即してバランスシートを調整する「出口政策」の実現が可能であることを、これまでのFRBの経験は示している。将来、同様の道筋をたどるであろうECBや日銀にも、FRBの経験は当てはまるのではないか。
また、中銀によるこれまでの金融緩和によって、銀行貸出や社債など民間負債が大きく膨らんだことが将来の危機の源泉になるとの見方がある。たとえばある大手経済メディアでは、リーマンショック後の10年間で、世界の総債務(民間・政府部門)が40%増えたことが将来の危機をもたらすリスクとして強調されていた。確かに債務は増えているもののGDP比率でみればそのピークは2016年だったのであり、それ以降は経済成長率との対比でいうと、むしろ債務拡大ペースは鈍っている。
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