リンガーハット、690円贅沢メニューの衝撃 「プレミアムちゃんぽん」に秘められた戦略

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「また、野菜の国産化にスムーズに移行できたのは、キャベツを通じ、契約農家との信頼関係が形成されていたからでしょう」(堀江氏)

このように、現在の“ヘルシーなちゃんぽんのチェーン”というイメージがつくられるまでには、さまざまな積み重ねがあったわけだ。

今、プレミアム店のメニューだけを見ると、“プレミアム”と冠するほどの大きな違いは感じられない。それはある意味、既存のちゃんぽんがほぼ理想型にたどり着いているからかもしれない。

ただ、プレミアムと銘打つ以上は、企業側も力を入れている。人材戦略もその1つだ。リンガーハットは約3割の店舗がフランチャイズだが、プレミアム店はもちろん直営店で、立ち上げには選りすぐりの人材を店長として投入しているそうだ。さまざまな店舗を視察している堀江氏に、「いい店長とはどんな存在か」を聞いたところ、「まず、いい店長は、スタッフを大事に育成する」という。スタッフが定着するので、店のポテンシャルが維持・向上する。スタッフのモチベーションがサービスや店全体の雰囲気に反映されるなど、ばかにできない影響がある。

近年は売り手市場で飲食店の人手不足は深刻なので、同社もスタッフ確保に力を入れているようだ。ちなみに勤務地の場所柄がよくて制服がおしゃれなプレミアム店はスタッフ確保に有利で、これまでのところ客からのクレームも少ないという。

庶民の味で挑む「プレミアム」の訴求

「あと、味は均一化されているのであまり変わりはないのですが、いい店長がいる店は盛りつけ方が違う。たとえば『野菜たっぷりちゃんぽん』なら、野菜を高く盛り、いかにも“たっぷり”という感じで盛りつけます」(堀江氏)

堀江氏は味が均一化されているというが、ある長年のリンガーハットファンに言わせると「店によって微妙に違う」そうだ。盛りつけ方に見られるようなちょっとした丁寧さが、作業過程の随所で積み重ねられ、味の違いに表れてくるということはありうるだろう。

このように見てくると、リンガーハットプレミアムは、こうしたわずかな違いの積み重ねで、店全体でおもてなし感が味わえる店と言えるかもしれない。

「ただ、もっと差別化してほしいという声もあるので、お客様のご意見をもとにブラッシュアップを重ねていきたいと思っています。幸い店舗数も少なく小回りがきくので」(堀江氏)とのことで、具材やメニューについては今後も変更の可能性がある。近くはちゃんぽんに海鮮具材を1品追加することを検討中だ。

プレミアム店は拡大の方向に向かっており、すでに横浜、軽井沢、新橋に4号店まで展開、さらに福岡への出店も決まっている。

「店舗にご当地カラーを出していきたいと考えています。たとえば横浜店はトッピングにアオサを使ったり、大葉で巻いて食べるぎょうざなど、オリジナルメニューを出しています」(堀江氏)

評価の高いメニューがあれば他店にフィードバックするなど、柔軟に検討していきたいという。なお横浜店はアルコールやおつまみが充実し「ちょい飲み」客も多いため、客単価が通常より140〜150円高いそうだ。こうして見ると、プレミアム店はフラッグシップ店のような位置づけで、ブランド訴求やマーケティングに活用できるのかもしれない。今後は、主要都市を中心に展開していくそうだ。

ちゃんぽんという料理自体が庶民の味だからこそ、「プレミアム」の訴求には、ある難しさがあるのかもしれない。ただ、飲食業ではプレミアムブームが盛んで、消費者はプレミアムという言葉に慣れている。健康的な食事、という大きな柱を維持しながら、もっと思い切ってプレミアムを追求してもよいのかもしれない。

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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