なぜ今さら?欧州鉄道で「客車」見直しの兆し 日本では廃れたが柔軟性や低コストで再評価

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ところで昨今、このオーストリアの事例に限らず、ヨーロッパ各国では近年縮小傾向にあった客車列車を見直し、運行継続へ向けて車両の更新や新型車両の発注を行う動きが出てきている。

チェコ鉄道は2018年3月、同国内および周辺国への直通用として、新型客車5両編成10本50両をシーメンス、および地元メーカーのシュコダへ発注した。

この新型客車は、前述のヴィアッジョタイプがベースとなっている。チェコでもオーストリアと同型のレイルジェット車両が使用されており、実績があることが契約に至った理由の1つであることは間違いない。原則的には固定された5両編成で使用する予定だが、完全な固定編成ではなく、あくまで客車であるため、繁忙期には必要に応じ、通常の客車を増結することも可能となっている。

チェコで使用される元オーストリア連邦鉄道の客車。1977年に製造された古参だが、オーストリアの客車は非常によくメンテナンスされており、中古市場での人気は高い(筆者撮影)

チェコ鉄道では、アルストム製の車体傾斜装置付き特急電車「スーパーシティ」が2006年から運行されており、今後は同国における都市間輸送の主力車両になると目されていたが、その後は追加で製造されることはなかった。2015年からは、国内専用の急行電車660型(通称「インターパンター」)が製造されているが、近年は主にオーストリアから不要となった中古客車を購入して車両の更新や増発に充てている。今回の新型客車発注は、同社にとってレイルジェット以来の新型客車となる。

また、ドイツ鉄道も、現在インターシティで使用している客車を増備中のICE4型(電車)によって置き換えると発表しているものの、ここへきて従来の客車列車を存続させる可能性を検討しているとも言われている。

電車化一辺倒の動きに変化

だが、なぜ今さら客車列車なのか。

21世紀に入ってからヨーロッパ各国に投入された新型車両の多くは、動力分散方式のいわゆる電車タイプとなっている。それまで長年、機関車が客車を牽引するスタイルが一般的だったヨーロッパにおいても、動力分散方式の電車のほうが加速性能や高速性能に優れていると認識されており、特急列車から近郊列車まで、さまざまな新型電車が製造され、従来の客車列車を置き換えていった。

とりわけ、国際列車に使用される長距離列車用の車両については、ヨーロッパ各国の電化方式や信号システムに対応した万能型、いわゆるインターオペラビリティに適合した車両を開発・製造し、客車列車を置き換えるのがこれまでの図式で、高速列車に関してはフランスのTGVを除いて、完全に動力分散方式へと移行している。

ところが、最近になって若干の変化が現れ始めた。

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