歴史に残る「純愛ストーカー」が見た切ない夢

イタリア文学の父、ダンテの妄想癖

何それ!? まるで低学年男子の思考回路に匹敵するものである。中世のフィレンツェはかなりお堅い雰囲気であったとはいえ、わざわざ別の女に夢を見させる必要もないだろう。しかし、ミサそっちのけで、視線を合わせてアイコンタクトを楽しむ中世フィレンツェの若者たち、なかなか積極的だ。外出の機会がまれだったので、日曜日のミサはファッションショーのように、見たい人と見られたい人には絶好の場だった。

ダンテの妄想プレーの犠牲者となった女性とのやり取りはしばらく続くが、そのうち本命に告白するだろうと思いきや、ベアトリーチェへの熱烈な思いがぎっしり詰まった詩を次から次へと書き続けるものの、彼女には一向に送ろうとせず、一切アクションを起こさない。そんなこととは露知らず、ベアトリーチェはもっとわかりやすい男性とゴールインし、その数年後にあっけなく死んでしまう。

ダンテはなぜその恋に生きなかったのか

しかし、ロマンチックな悲愛を想像すると、『新生』で見え隠れする妄想ヲタクのストーカーぶりにドン引きすることになる。収められている中で最も有名な詩には、アブナイ気質のにおいがぷんぷんとする。

【イザ流圧倒的意訳】
我が淑女が他の人に挨拶するときは
優雅さと誠実さに満ち溢れて見える
舌は震え話すことが到底できず
眼は彼女を見つめるにあたわず……

大きな鼻にコンプレックスを持ち、決してイケメンだと言えないダンテ。その純情すぎるストーカーぶりは恐ろしくもあるが、一読者としてその純白な愛を思わず応援したくもなってしまう。しかし、震えながら見つめている異性が実際に近くにいたら絶対に怖いはずだ……。

妄想に終わってしまった大恋愛の副産物としてイタリアが世界に誇るすばらしい文学作品が残ったわけだが、ダンテはなぜその恋を生きることを選ばなかったのだろうか。学生時代から疑問に思っており、今でももやもやしてしまう。

次ページもしベアトリーチェに詩を送っていたとしても
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