Jパワーvs.英ファンド、急転直下の対立解消
電力会社と大株主との対立が意外な形で終結を迎えた。電力卸のJパワーは10月31日、筆頭株主(9・9%)の英投資ファンドTCIが保有する全株を約630億円で買い取ると発表した。
TCIが同社の大株主に浮上したのは2006年。その後、大幅な増配や社外取締役の導入などの株主提案を突き付け、活発な行動が注目を集めた。今年1月、さらに保有比率を引き上げようと、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく買い付けの事前届け出を実施。最終的には政府が投資の中止命令を下す事態にまで発展した。その間もJパワーは一貫してTCI側の提案を拒否。対立は今後も続くかにみえた。
買い取り請求権を利用
「このような(買い取りの)シナリオはまったく考えていなかった」(中垣喜彦社長)。終結を迎えるきっかけは7月末に出されたJパワーの発表だった。その内容は子会社の一部事業を承継するもので、取締役会決議による「簡易吸収分割」の形式だった。子会社が石炭輸入業に特化できるように講じた経営効率策だが、これに対しTCIは理由も言わず「反対」を表明。会社法では、吸収分割等に反対する株主は、保有株を公正な価格で買い取り請求ができる旨が規定されている。反対を表明した当初からTCIがこの規定を知っていたかは不明だが、結果的にこの条項が利用される形となった。
9月上旬、TCIへ決算内容を説明した際、話は買い取り価格に及んだ。算出の基本は市場価格だと伝えると、TCI側は「安すぎる」と一蹴したという。そのときの株価は4000円弱で、TCIの平均買値を500円程度下回っていた。
だが、買い取り請求の受付締切前日の9月29日になって、TCIは買い取りを申し込む。くしくも、その間に起きたのが、リーマン・ブラザーズ破綻による金融混乱だ。9月中、Jパワーの株価は下がり続け、月末には3000円前半に下落。中垣社長も会見で「動機はわからない。ただ今回の金融混乱が(TCIに)何らかの影響を与えた可能性はあると思う」とした。保有株の含み損が広がる前に、いっそ買い取ってもらおうとの意図がTCIに働いたとみられる。
TCIの保有株買い取りに応じるには多額の資金が必要で、Jパワーには事業承継を取りやめ、請求を拒否する選択肢もあった。しかし、「昨年から検討してきた。急務で必要なこと」(中垣社長)との理由から買い取りを決定。それに伴い借入金は増えるが、物言う株主の撤退で、思いもよらぬ「平穏」を取り戻すことになった。
(井下健悟 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)
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