ばかにできないのがベッドを整え、ごみを出し、消耗品を補給し、銀行や役所の事務連絡をこなし、宅急便を受け取るなどといった山のような「名もなき家事」です。そうした家事をこなしながら仕事を続けている女性は、職場の仕事を決められた時間に仕上げ、家に帰ってもこまごました仕事を短い時間で効率的にこなす、という習慣が身についています。
今まで多くの男性は、仕事時間を早く切り上げて他の仕事、つまり家事をしなければ、と考えませんでした。別に会議時間が長かろうと、納期間際の残業だろうが、国会待機だろうが、「仕事だから」仕方がない、と考え、それを少なくするようにとは本気では考えてきませんでした。
会社も、従業員に残業代さえ払えば喜んで働いてくれるという前提で無理な仕事も命じてきました。そうした職場では、帰宅後に別の仕事をしなければならず、早く職場の仕事を切り上げたいと考えている女性社員は「使えないやつ」でした。
出産後も働き続ける女性が増えているのに女性の管理職が増えない最大の理由は、長時間労働ができないから。それが職場での低い評価につながっていると、山口一男シカゴ大学教授は指摘されています。今度の働き方改革で女性だけでなく男性も長時間労働ができなくなったら、きっとそうした評価は変わるに違いありません。
男性が「専業主婦の仕事」を奪う?
でもこう言うと、「長時間労働ができなくなった男性が家事や育児に手を出すと、専業主婦の仕事を奪うのではないか」という危惧と批判の声が上がるかもしれません。そうなのです。男性が家事や育児、将来は介護も分担すると専業主婦は手持ち無沙汰になり、“ほかの仕事”ができるようになるのです。
男性の長時間労働是正の副次的効果は、既婚女性社員が働きやすくなり、専業主婦が就業できるようになることです。卵が先かニワトリが先か、正社員は長時間労働が当たり前だから女性は家庭と両立できない、女性が専業主婦だから男性は安んじて長時間労働ができる。という前提が崩れるのです。働き方改革は家庭改革につながるのです。
それを歓迎しない男性もたくさんいます。本音のところでは家事や育児を分担するより、職場で長時間労働をしていたほうがラクで楽しい。今までとりあえずうまくいっていることをわざわざ変える必要はないじゃないか、と。
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