どうする不要な公共施設、遅ればせの規制緩和、官庁の縄張りが障害
省益・局益の縄張り意識
第一に、この規制緩和が肝心の市町村にまだよく知られていないことだ。本来、総務省がもっと広報活動を展開すべきなのだが、それが十分にはなされていない。
この規制緩和の指示は、まず財務省が各省に、各省が内部の各局にという完全な縦割りの経路で行われ、局レベルで具体的な承認の基準を決めた。だから、承認基準は必然的にバラバラになる。しかも、こうした過程を経た後、各都道府県に対してバラバラに指示が伝達されたが、肝心の市町村レベルには、まだ十分な情報が下りていないのが現状だ。
こうした事情により、申請書の様式が各省ごとどころか、各局ごとに異なるといった事態になっている。
この規制緩和に中心となって取り組んできた内閣府規制改革会議委員の米田雅子慶應義塾大学教授も「申請書式の統一やわかりやすいガイドブックが必要」と指摘する。
こうした背景には、各省の官僚がこの規制緩和をあまり歓迎していないことがある。
なぜなら、自分の局が出した補助金で造られた施設は、その局の官僚にとって自分の縄張りである。転用されることは、縄張りが他局や他省に奪われることになるからだ。
仮に健康管理関係の施設を児童の育成の施設に転用するとしよう。どちらも厚労省の管轄だが、所管する局が前者は健康局、後者は雇用均等・児童家庭局と異なる。自治体から転用の申請を受けて承認を検討する健康局の官僚は、自分の縄張りを児童家庭局に取られるということになり、承認に抵抗する動機となる。管轄の省が移るような転用の場合には、さらに抵抗が大きい。
行政改革論議でつねに問題となる、役所の縦割り問題がここでも大きく立ちはだかっているのだ。
もう一つの大きな問題がある。規制緩和から公社、第三セクターなどの自治体以外の機関が対象から外されたことだ。全国の三セクの財政は一部の例外を除き、瀕死の状況にある。再建には不要な資産を処分することが喫緊の課題となる。今回の規制緩和は、三セクにとっては絶対に必要なものなのだ。だが、たとえば農水省は、自治体以外の機関が保有する10年以上経過した補助対象財産を転用するとき、農水省の枠外(たとえば厚労省)に転用する場合には農水大臣の承認を必要とするなどの制約を設けた。農業関係施設を高齢者施設にするわけにはいかないという縄張り意識が出た格好だ。
「規制改革会議としては、自治体以外の機関が保有する補助対象財産の処分について主要省庁にヒアリングを行う予定だ。規制緩和の枠を広げていく必要がある」(米田教授)
今回の規制緩和は、遅ればせとはいえ、前進と評価できる。しかし、役所の消極姿勢や必要性の高い第三セクターの除外など、「仏造って魂入れず」の感も否めない。規制緩和の拡大がぜひとも必要だ。
(福永 宏 =週刊東洋経済)
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