関空の玄関口「なんば」南海電鉄が抱く危機感 訪日客に人気だが「なにわ筋線」で素通り懸念

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一方、相鉄は、神奈川東部方面線開業に伴う利便性向上によって沿線への人口流入と乗車人員増加を見込む。沿線人口が増加すれば、普段の通勤・通学にはJR・東急直通線を利用する人たちの一部が、休日に買い物やレジャーで横浜駅(および同駅を経由してみなとみらい・関内方面)へ足を運ぶようになるかもしれない。横浜駅周辺が買い物やレジャーの目的地となるためにも、同駅周辺の魅力維持・向上は相鉄にとって大きな課題である。

神奈川東部方面線は、なにわ筋線よりも先に開業する。同線開業後の横浜駅および併設商業施設の動向は、南海電鉄にとって重要な参考事例となりそうだ。

南海は「医療」を強みに

ただし、状況は類似しているものの、横浜駅にはできず、難波駅にできるものがある。難波駅併設の「なんばスカイオ」に新たにできる「駅直結のクリニック」だ。9階メディカルフロアには、各地で医療施設を展開する南東北グループのクリニックが入居する。

遠北社長は「国民の2人に1人が『がん』にかかると言われる時代で、かつ高齢化社会の進展で、生活の質を下げない治療方法のニーズが高まっている。一方、日本の医療技術、先端医療のレベルは世界でもトップクラスと言われ、国内の主要病院には日本の質の高い医療サービスを求めて、アジアを中心に医療ツーリズムも始まっている。当社では日本およびアジアの国民病とも言える『がん』の放射線治療で多くの実績を有する南東北グループのクリニックを誘致することで、当社沿線、関西およびアジアで『がん』で悩む方々の一助になればと考えている」と意気込む。

観光・ビジネスはもちろん、大手私鉄がターミナル駅の利便性を生かして、医療需要の高まりや医療観光に対応して医療機関を併設する事例の増加が期待される中、南海電鉄はいち早く難波駅の「がん」治療拠点化へ向けて歩みを進めている。

なにわ筋線開業後も難波駅周辺の集客力を維持・向上させるためには、魅力向上に向けた絶え間ない努力が欠かせない。難波駅周辺の価値向上を進める南海電鉄の取り組みは、同社の企業価値向上と地域活性化の行方を左右するはずだ。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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