川崎市で筋金入りの軍事見本市をやる危うさ ソフトバンクは直前になって参加取り止め

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同団体が提出した前述の公開質問状に対して、とどろきアリーナを管轄する川崎市中原区地域振興課は、「安全対策の出展であり、武器などの危険物は持ち込ませないので問題ない」との回答書を返送。これに対して、杉原さんは「露骨な武器の展示はなくとも、監視などの技術がイスラエルによる戦争犯罪を通して開発され、殺傷や抑圧を目的とする軍事システムの一環であるという本質は何ら変わりません」と反発している。

杉原さんらはすでに今月16日、利用許可の取り消しを求める要求書と4631人分の反対署名を市役所に提出。行政のみならず主催団体にも開催中止を要請していく考えだ。

川崎市は、公害問題だけでなく、近年は外国人との共生など人権問題にも目を向けている。その成果か、2006年には日本の自治体で唯一「国連グローバルコンパクト(UNGC)」に参加した。「グローバル・コンパクト」は2000年7月にニューヨークの国連本部で正式に発足。人権の保護、不当労働の排除、環境への対応、そして腐敗の防止に関わる10の原則を軸に、参加団体が自発的に取り組む運動である。

国内ではオリンピックまでにあと2つ軍事見本市が

「人権を侵害するサプライヤーからものを買わない、プロモートしない」が原則のグローバル・コンパクトの理念に照らし合わせると、今回の川崎市の動きには首をかしげざるを得ない。

2016年7月にメディア各社が報じたように、防衛装備庁はイスラエルとの無人偵察機(ドローン)共同開発を進めている。この報道の時点ですでに両国の防衛・軍需企業に参加を打診しており、準備は最終段階に入っているとされた。この流れは2015年1月に安倍首相が欧州によるBDSで苦しむイスラエルを訪問して以来つづいているものだ。

思えば2015年の「MAST Asia」は、防衛省、経済産業省に加えて外務省も後援するイベントだった。「ISDEF 2018」には日本政府の表だった仲介はないが、何らかの形で援護射撃が行われている可能性はある。オリンピックという4年に1度のお祭りの先は、その裏にとんでもない動きを抱えているのかも知れない、と思わせる事態だ。

ちなみに、2020年までにあと2つ、武器の展示も行われる見本市が開催される予定となっている。1つが、今年11月末に東京ビッグサイトで開催される「国際航空宇宙展2018」。もう1つが、来年6月半ばに幕張メッセで開かれる「MAST Asia2019」である。国際世論が反イスラエルに傾く中、日本ではオリンピックの警備の在り方も含めて真剣な議論が必要なのではないか。

檀原 照和 ノンフィクション作家

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だんばら てるかず / Tell-kaz Dambala

1970年東京生まれ。法政大学法学部政治学科卒業。日本の近代裏面史やダークツーリズムから市井の人々の暮らしまで幅広くカバーするノンフィクション作家。現在は主に東京湾岸エリアや台湾などを探索している。現在までに『ヴードゥー大全』(夏目書房 2006年)、『消えた横浜娼婦たち』(データハウス 2009年)、『白い孤影 ヨコハマ メリー』(ちくま文庫 2018年)の3冊の単著と共著『太平洋戦争 封印された闇の史実』(ミリオン出版 2015年)を上梓している。ブログはこちら

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