テスラCEO大迷走、株式非公開化「撤回」の理由 イーロン・マスク氏のツイートで株価乱高下

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SNS上の情報開示は、SECが2013年から容認している。だが、「情報の正確性をどう担保するか、会社側が投資家のアカウントをブロックした場合はどう情報を得るかなど、具体的なルールは決まっていない」(米国証券法に詳しい早稲田大学の黒沼悦郎教授)。

日頃からツイッターを発言ツールとして多用するマスク氏。テスラの重要情報を発信する一方で、今年のエイプリルフールに「テスラは破綻した」というジョークを放つ、タイの洞窟で出られなくなった少年を助けたダイバーを「小児性愛者」と表現する、などの舌禍は、テスラの株価にたびたび悪影響を及ぼしてきた。一方、今回の非公開化撤回の発表は、ツイッターよりも先に、公式ブログ上で行われた。さすがのマスク氏も反省したということだろうか。

マスク氏が非公開化を望んだそもそものきっかけは、昨年の秋ごろから量産型セダン「モデル3」の生産遅延が明らかになり、同社への批判が強まったことだ。パナソニックと共同で運営するモデル3向けの電池工場「ギガファクトリー」の自動組立てラインが立ち上がらず、週5000台の生産目標が延期されるたび、同社の株価は下落。カラ売りファンドがテスラ株を大量に買い増したこともあり、乱高下を繰り返した。

テスラが米カリフォルニア州に持つフリーモント工場。最近では既存の建屋だけでは生産が追いつかず、敷地内に大型のテントを建て、新たな生産ラインを整備する事態になっている(写真:Tesla)

幸い、今年の4~6月にはモデル3が週5000台の生産目標を達成。一方で生産ラインの入れ替えなどの設備投資が相次いだことで資金繰りの悪化は続いており、7月には、一部の部品メーカーに支払い代金の返還を要請していた。

マスク氏は焦りを募らせるばかりだった。5月に行われた2018年1~3月期の決算会見では、設備投資やモデル3の予約状況などについてのアナリストの質問を「退屈で間抜け」「ばかばかしい」と一蹴し、回答を拒否したことで批判が殺到した。

追い詰められたマスク氏

8月7日の「非公開化」ツイートの直後に公開されたテスラの公式ブログにも、「上場していることで、四半期単位では適切でも、長期的には適切ではない決断を強いられる」「カラ売り筋の多くは、会社を攻撃するのが目的だ」といったマスク氏の葛藤が綴られていた。

8月16日に公開された米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューでは、マスク氏が量産拡大のために24時間陣頭指揮を取り、弟の結婚式にも遅刻しそうになったこと、睡眠障害に悩む現状などを吐露している。突然の非公開化宣言の背景には、マスク氏の追い詰められた状況も影響しているとみられる。

テスラの株価は、上場から8年で時価総額5兆円にまで膨れ上がり、一時は米最大の自動車会社、ゼネラル・モーターズを抜いた。ただ、マスク氏の描く壮大な計画に反して、ものづくりの技術は未熟だ。今後もモデル3の出荷拡大や、中国での工場建設などが控える。テスラが今一番に優先すべきは、非上場化による“外野”の排除よりも、マスク氏が経営の安定化に打ち込むために現場を一任できる“右腕”探しだろう。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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