現実の経済の仕組みでは、累進性のある相続税や所得税が資産の格差を縮小するような働きを果たしてきた。しかし、格差問題を深刻にとらえる経済学者は、1980年ごろから先進諸国で、レーガノミクスやサッチャリズムといった思想の下、こうした効果を縮小するような政策が採られてきたことを問題視している。
日本では所得税の最高税率は1974年には75%だったが、2018年時点では45%となっている。これは、日本では税収に占める所得税や住民税などの直接税の比率が高く、間接税の比率が低いことから、直接税の比率を低下させて間接税の割合を高めるという、直間比率の是正が課題とされてきたためである。
格差の是正のためには直接税の見直しが必要だ
たとえば総務省の資料によれば、1985年度には国税と地方税を合わせた税収全体では直接税の比率が77.6%、間接税が22.4%だった。所得税や住民税の最高税率が引き下げられる一方で、1989年に税率3%の消費税が導入されて、1997年には5%に、2014年には8%に引き上げられた。これによって直接税の割合が低下し間接税の比率が上昇して、2016年度決算ベースでは、直接税が66.0%、間接税が34.0%の割合となっている。
国から地方への税源移譲が行われたこともあって、所得税の最高税率は2007年から37%にまで引き下げられていたが、その後は若干引き上げられている。相続税も最高税率は75%だったが、50%にまで引き下げられた後、現在は55%となっている。
高齢者に資産の保有が偏っているという世代間格差問題を是正するとか、景気対策になるとの理由で、教育費や住宅取得を目的とする親から子・孫への贈与に対して税負担を軽減してきたことは、最高税率の動きで見える以上に相続税の格差是正機能を縮小させている可能性があるだろう。格差問題に取り組むためには、直接税のあり方について再検討が必要であろう。
筆者が経済学を学び始めた40年ほど前には、労働者の貯蓄率より資産家の貯蓄率のほうがはるかに高く、労働者への所得分配率が低下すると消費需要の不足・貯蓄過剰となって経済は不振に陥るという話があったように記憶しているのだが、どこに書いてあったのか記憶は定かではない。
このような議論は、最近のマクロ経済学の教科書ではまったく見掛けないが、企業の貯蓄・投資行動が株価上昇を期待する株主の意向を受けたものであると考えれば、先進諸国で企業の資金(貯蓄)余剰が起こっていることも説明できるだろう。格差自体が問題であるだけではなく、マクロ経済の問題としても格差の影響を考察する必要があるのではないだろうか。
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