兵庫の「公立進学校」が強豪私立と戦える理由 報徳学園に惜敗した長田高校は異例のチーム

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早大学院も私立でありながら、野球部ではスポーツ推薦で生徒を採ることはしない。若干名のシニア経験者はいたが、同地区の早稲田実業、日大三高などの面々と比較すれば、決して野球エリートたちの集まりではなかった。当時のチームの主力であった、永野優太氏はこう述懐する。

早大学院OBの永野氏(筆者撮影)

「チームが劇的に変わったのは、1年夏(2009年)に監督が木田茂さんに替わってからですね。それまでのチームはどちらかといえば大味で、守備も打撃も“そこそこやるよね”という程度のチームだったんです。それが、監督の意向でとにかく守り抜くという方針に変わったんです。

あとは、日大三高、前橋育英、仙台育英といった強豪校との試合経験を積めたことで、自分たちの意識も変わっていった。

部員たちが、『俺たちの野球は強豪にも通用する』という自信が持てるようになり、野球に対する取り組み方に変化が生まれた。1年が経つ頃には、まったく違うカラーのチームになっていましたね」

当時の早大学院は徹底して守りに重点を置いたチームだった。大量得点は望めないが、守備力に長け、ミスが少ない、堅実な野球を展開した。

早大学院が力をつけていった背景

前出の長田高校と対照的だが、これはそうせざるをえなかったという言い方もできるだろう。

早大学院は、ほかの部活と共同でグラウンドを使用する関係から、放課後のバッティング練習が一切できない。マシンやバッティングピッチャーを使った練習は、朝練で1日60球に限定されている。学校規定により朝練を行うのが週2日なので、計算的には週に1人20球のみだ。バッティングに充てる絶対的な時間は少なく、これは圧倒的なハンデといえる。

それでも、早大学院が力をつけていった背景にはこのハンデがうまく作用した。永野氏は言う。

「バッティングに充てられる時間は少なかったし、絶対量も足りなかった。ただ、その環境が選手たちに『それでも俺たちは強いと証明しよう』という、モチベーションにもなった。ハンデがあるからこそ、短い時間の中でみんなが非常に集中することができた側面もありました」

バッテイング練習がほとんどできないという環境が、これまであいまいだった早大学院の野球を形づくった。俺たちのチームには、一試合の得点チャンスは3回ほどしかない。そのすべてを何が何でも点につなげる――。

部員たちの意識は統一され、バントやスクイズ、エンドランなど小技や守備の練習に費やす時間が増えていった。結果的に鉄壁の守備を誇り、接戦に強いしぶといチームが出来上がったという。

近年の高校野球は、番狂わせが少なくなった。強豪私立と、それ以外の高校の差は今後も簡単には埋まらないだろう。

高校生は何かのキッカケで爆発的な成長を見せ、特に進学校が強豪校を凌駕するケースも散見される。その背景にあるのは、強豪校では考えられないハンデや環境を、自分たちの工夫で乗り越えてきたからこそで、偶然やラッキーという言葉で片付けられるものではない。そんなドラマも高校野球の醍醐味であり、人々の胸を熱くさせるのだ。

(文中一部敬称略)

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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