恐慌に発展する経済危機 迅速で有効な政策で責務を果たす時だ
市場の失敗が経済危機を発生させ、政府の失敗が経済危機を恐慌へと導く。今、世界経済はこのセオリーどおりの展開となってしまっている。残念至極なことである。
世界規模の経済的な動揺はもはや、証券化資産の劣化といったレベルを完全に通りすぎた。私たちが直面しているのは第2次大戦後に築いた世界経済の枠組みのメルトダウンである。正確を期す必要がある。少なくとも、10月28日現在、そうなっている。
それにしても、危機深化のスピードがとてつもなく速い。麻生太郎首相が毎晩、高級ホテルのバーなどで時間を過ごすのは勝手だが、その瞬間にも危機は高速度で巨大化している。真剣な対応でも追いつけないほどのスピードである。晩餐にうつつを抜かしていたら置いてきぼりを食うだけだ。
悠長で、かつ鈍感
だからというわけでもないかもしれないが、10月27日、麻生首相が関係閣僚に指示したとされる危機対策を聞いてあぜんとせざるをえなかった。あまりに具体性に欠けるその内容は対策という名に値しない。単なる願望と表現したほうがいい。株式市場も絶望した。内容が市場に伝わるや、株価は一気に下げてしまった。
前週までは「2兆円規模」だった銀行への公的資金注入額が一挙に10兆円に増加した。それをしたり顔でテレビ番組で語った与謝野馨経財担当大臣の発言には、「ただいま、渡辺銀行が倒産しました」と言う昭和恐慌時の片岡直温蔵相の失言に似た気配を、恐怖を持って感じた。
なぜ、当初から10兆円ではなかったのか。政府が当初、直面する事態に鈍感だったことを露呈しただけではない。突然、予算規模を5倍に引き上げたことは、危機が5倍のマグニチュードだったということを示唆してしまった。
そもそも、公的資金注入の根拠法である金融機能強化法は今年3月末に時限を迎え、失効している。本誌が2月から3月に時限の延長を主張したのは、過小資本の金融機関が厳然と存在している中で、同法を失効させると、首相が金融危機を宣言して公的資金を注入する金融危機対応措置と、預金の一部切り捨てを伴うぺイオフ型の金融破綻処理しかなくなってしまうからだった。
そして、懸念したとおり、金融機関はその事態に恐れおののいて、不良債権を発生させないために貸し出しを慎重化させた。金融庁は早期警戒制度の厳格適用で地域金融機関の再編を促そうとしたが、それもまた、金融機関をおびえさせた。失敗策だったと言わざるをえまい。
一方、急激な円高進展は、ヘッジファンドなどによる円キャリートレードの巻き戻しに国内投資家の外国証券売りが加わって発生しているが、理由はそれだけではない。急激な円高に対して、政府・日銀が毅然とした姿勢を明らかにしていないことも大いにその動きを助長している。
政府に比べると、日銀は市場への資金供給などで健闘している。が、しだいに限界が訪れつつある。10月15日、17日と、日銀は逆に金融市場から資金を吸い上げた。なぜか。政策誘導金利である無担保コール翌日物レートが誘導水準で0・5%を下回ってしまったからだ。資金の吸い上げによって、無担保コールレートを誘導目標に引き上げたわけだが、その後は市場で円資金の著しい逼迫状態が継続していることに何ら変わりはない。景況、市場動向を踏まえて、日銀は利下げを真剣に検討しなければならない局面になっているということである。
しかし、27日の「首相の指示」の中には金融政策に触れる部分は何もなかった。日銀の独自裁量を尊重した結果といえば格好がつくかもしれないが、世の中はそう受け取らなかった。政府と日銀による総合対策に向けた議論が行われていないように判断した。