恐慌に発展する経済危機 迅速で有効な政策で責務を果たす時だ
世界規模で発生している経済的メルトダウンに対して、主要国が協調して対策を実行しなければならず、そのためにも11月15日にはニューヨークに20カ国の首脳が参集する予定になっている。これは15日に一から話し合うということではなく、それまでに事態の打開に向けた国際的な通貨外交などが水面下で繰り広げられるということだろう。そう信じたい。
それまでの間、政府は国内政策をどう実行するのか。率直に言って、今のところ、政府の姿勢はあいまいで悠長すぎる。
政府は、30日に対策を発表する予定だ。つまり、本誌発売のとき、これらの懸念が杞憂に終わっていることを祈るしかない。
株式買い取りをするのであれば、市場から数十兆円規模で吸収することが必要だし、為替介入には日銀による利下げがパッケージされないと効果は期待できまい。さらに銀行の自己資本比率維持のためには、単なる保有株式の時価会計凍結や保有制限の撤廃だけではなくて、自己資本比率規制(BIS規制)という枠組みそのものの見直しまで展望しないと中途半端に終わる。
わが国は欧米諸国に先駆けて、銀行の資産を一段と厳格に査定する自己資本比率規制、バーゼル�を導入した。しかし、強烈な不況局面の中では、バーゼル�は信用収縮のスパイラルを従来の規制体系以上に加速させるメカニズムを発揮する。
バーゼル�のいち早い導入によって、邦銀は欧米の銀行よりも証券化資産投資を抑制できたという面は高く評価してよいが、それは危機に瀕しないための布石としての評価である。今は危機に突入してしまった。信用収縮という危機の中では、そのような規制体系は危機を助長させていくことを明確に認識しなければならない。
責務を果たすためにも
とにかく、危機なのである。しかし、それでも、先進国の一角を占めるわが国は経済大国であり、相対的に体力があることは間違いない。ところが、そうではない国々が世界には数多くある。
オイルショックの後に世界を襲った累積債務国危機を瀬戸際で防ぐために、世界のセントラルバンカーの中で中心的な役割を果たした故前川春雄元日銀総裁は、同危機処理を終えた1983年1月、「債務累積問題は決して色あせず、また、借金国が悪いと言って片付けられる問題でもない」と戒めた。
残念ながらその言葉のとおり、色あせなかった問題は、さらに悪化するかもしれない。非力な国々では子供たちが餓死し、女たちが売られている。30年代の大恐慌を社会背景にしたスタインベックの『怒りの葡萄』と似た状況が世界各地にある。このままではさらにひどくなるだろう。先進国の一角として、それを解消させる責務が私たちにはある。そのためにも、一刻も早く自らの足元を固める必要がある。
(浪川 攻 =週刊東洋経済)
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