パナとNECが激突、空港「顔認証」ゲートの戦い 空港混雑、出入国審査官不足は解決するか
今回はパナソニックに案件を取られたが、NECとて手をこまぬいているわけではない。「法務省が管轄する出入国審査以外にも、空港には顔認証技術を活用する余地がたくさんある。手荷物の預かりから、チェックイン、空港内での買い物まで、1回の顔認証でパスできるようにするなど、空港の自動化を促進するさまざまな提案が可能だ」(顔認証システムを担当する守村範子・セーフティ事業戦略室主任)と息巻く。
出入国管理への顔認証システム採用は、すでにオーストラリアや欧州諸国、シンガポールなどが先行しており、国を挙げて顔認証技術を開発する中国もじきに追随してくるはず。ただ、世界中で空港運営がますます厳格化・効率化していく中で、見過ごせない問題もある。実は顔認証により取得した顔データの取り扱いについて、世界的に統一されたルールが存在しないのだ。
顔認識技術に対する懸念と規制論
「顔認識技術が急速に広まると、プライバシーの保護や表現の自由といった基本的人権が侵害されるおそれがある」――。米マイクロソフトのブラッド・スミス社長兼CLO(最高法務責任者)は7月13日の公式ブログで、顔認識技術の運用にルールがないことに警鐘を鳴らし、政府が自ら規制を設けるべきだと提唱した。
マイクロソフト自身も顔認識システム「Face API」を展開しており、アップルやグーグル、アマゾン、フェイスブックなど、ほかの米国IT大手も軒並みこの技術の開発に巨費をつぎ込んでいる。だがその活用方法によっては、特定の人種への差別や個人情報の侵害につながりかねないとして、世界中から批判の声が上がる。実際に今年5月、アマゾンのリアルタイム顔認識システム「Rekognition(レコグニション)」が警察に販売されたことが判明した際には、社内外から反対運動が湧き起こった。
日本の法務省の場合も、空港の顔認証ゲートで取得したデータの扱いについて慎重に議論を重ねた。保存することも検討したというが、「データが漏洩した際のリスクも鑑みて、最終的には顔の認証が完了した段階でデータを消去することにした。国もメーカーも、顔データを保有することはいっさいない」(法務省入国管理局総務課の市村信之・出入国管理情報企画官)。ただ、他国の空港が同様の個人情報取り扱いをしているという保証はない。
顔認証をはじめとする生体認証システムは、空港などのセキュリティ用途のみならず、多方面での活用が期待される。これにより実現するのは、安全で快適な社会なのか、それともSF小説に描かれた大衆監視社会なのか。技術革新には正と負、両方の側面がある。技術の普及に合わせて、ルールや規制が整備されていくべきだといえる。
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