想像と観念論は時間の無駄。理論よりOJTで人は育つ--金川千尋・信越化学工業社長
目下、13期連続で最高益を更新中の信越化学工業。化学業界で下方修正が相次ぐ中、2009年3月期の中間業績も期初の営業増益計画にピタリと乗せた。だが主力の塩ビは中国での需要減、半導体ウエハでは需要家の乱調という逆風が吹く。最高益の更新に死角はないのか。
--米国発の金融危機が広がっています。今後実体経済への影響が懸念されますが。
金融が少し独走しています。一般の景気は、まだそれほどパニックの状況下にはない。われわれの商品は安定しています。ただ(下落基調にある)株価というのは3カ月先、半年先の先見性がありますので、軽視するわけにはいきません。
--経営戦略を見直していくという判断は働きませんか。
戦略の見直しは毎日やっていますからね。つまり毎日危機感を持ってやっているということです。こう言うと口幅ったいですが、これ以上できないことを毎日やっています。しかし、そうはいっても容易ではないなという感じは持っていますよ。
ここ3~4年好況が続きましたから、現状、合理化はあまりやっていません。合理化というのは最後の手段であり、血を流すことだからできればやらなくて済むほうがいい。合理化をやらなくたって、営業その他のところで最高の方法をとって収益が上がればそのほうがいいわけです。ただ、本当におかしくなったら、なりふり構わず合理化に踏み出します。
--騰勢一方だった石油価格が今下落しています。ただ、新興国需要を考えると、世界的な資源高は避けられません。油価が上昇すれば需要家との交渉も大変ですよね。
油は直接大きな影響はないです。あったとしてもほとんど転嫁できています。ただ転嫁した場合、需要家も仕方なくのんでくれていますが、需要は減ってしまいます。だから需要家に転嫁できたら、いいってものではない。経済全体に非常にグルーミーな印象を与えてしまいますね。
--一時、1バレル=145ドルまで進みました。これにはヘッジファンドなど投機家の動きも気になります。
少数の投機家が投機をあおっているだけで、私は実態を表していないと思います。投機家の集まりであるヘッジファンドなどは、株価下落で潰れてしまえばいい。害を及ぼす一方です。彼らは実体経済には何の影響も及ぼしていません。
まともに製品を作って、それをまともに売ってという循環がいちばん正常ではないですか。われわれは必要なものを作っている。むしろ投機家なんていないほうがいいのです。
--塩ビ事業の変調はいかがですか。8月に米国のプラクミン工場が稼働しました。これにより、既存の工場と合わせ年産234万トン体制が整いました。すべて売り切る自信はありますか。
もちろん売りますよ。世界は広いから作ったものは売ります。おそらく米国の(塩ビ子会社の)シンテックも今期最高益を上げますよ。
ただ、目先だけでいえば、塩ビは悪いけれど苛性ソーダがいいとかいろんな要素があります。苛性ソーダは今非常に引き合いが強い。神様が助けてくれたと思っています。ツキも実力のうちといいますから。プラス面は最大限活用していきます。
--米国市場が落ちこんでも今年度も連続最高益を上げることは可能だと思われますか。
米国は世界の中のあくまで一部ですから。シンテックの工場は港と隣接していて世界とつながっているわけです。ブラジルを含めた中南米なども好調ですよ。
--欧州も変調を来しています。
影響は限定的です。欧州は基本的に自給自足で、需要はほぼ域内からの供給で満たしています。当社はオランダ子会社を使って欧州域内で生産をしています。
--このような状況下でも、他社と比べてなぜ、信越化学工業だけが強さを発揮できるのでしょうか。
他社が何をやっているかなんて興味はありませんし、知りません。そこがなぜ悪いかなんて調べたってしょうがない。逆によいところは研究しないとね。学ぶところがあれば取り入れればいいのです。つねに研究してデータは役員会で発表していますよ。
当社の強みは経営がしっかりしているからではないですか。観念論は言いません。想像と観念論は時間の無駄です。そういう人が社内にいたら外に出します。聞きたくないし聞いている時間もないのです。われわれが戦っているのはアマチュアではなく、プロと戦っているわけだから、理論だけじゃ、ダメなのです。