欧州の「新参鉄道会社」が悩む機関車の選び方 中古やリースが中心だが「お手頃」新車も登場

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「ヴェクトロン」より前のシーメンス社主力製品、通称「タウルス」と呼ばれる万能機。スペックが高すぎて、持て余すことも多かった(筆者撮影)

このような方式は、運行事業者がより最適な仕様の機関車を導入できるメリットがあるが、発注の際に煩雑なのも事実だ。そこでシーメンスは、特に貨物事業者が多いドイツに的を絞り、貨物用の1グレード1プライスの機関車を製造することにした。

これが、同社の「ヴェクトロン・プラットフォーム」をベースにしたドイツ向け貨物列車専用機関車「スマートロン」である。

外見を含む基本性能はベースとなった「ヴェクトロン」と同じであるが、ドイツ国内の貨物事業者をユーザーに想定しているため、電源方式はドイツ国内の1種類のみ、信号システムもドイツ国内で使用されるタイプのみ対応。最高速度も時速140km仕様のみ、塗装はシーメンスが指定した「カプリ・ブルー」と称する青1色だけ……と徹底的な標準化を図っている。また、「ヴェクトロン」は定格出力6400kWが標準仕様となっているが、「スマートロン」では必要十分とされる5600kWへ低減している。

中古から新型へ、切り替え進むか?

これは自家用車の購入に置き換えてみるとわかりやすいかもしれない。乗用車は高性能スポーツグレードが欲しい人もいれば、ラグジュアリーな仕様を求める人もいる。オプションでナビやサンルーフを付けたい人だっているはずだ。

しかし、法人向け商用車の場合、最低限エアコンとカーラジオが付いていれば十分で、会社が注文する際はベーシックなグレードを選択することがほとんどだろう。場合によっては、同じ車台とボディパーツを使っているのに、商用車だけ別ブランドで展開していることもある。つまり「スマートロン」は、その鉄道版と言える。

民間貨物会社で活躍する旧ドイツ鉄道の143型機関車。製造からすでに30年以上が経過している(筆者撮影)

「スマートロン」は、ベースがすでに運用されている「ヴェクトロン」と同一のため、ドイツ国内で運用するための認可は下りており、注文を受ければ速やかに製造、販売することが可能という。最初に注文を受けた車両は、2019年初頭に納品できるとシーメンスは述べている。

現在も新規事業者の参入は続いているが、まだまだ中古の旧型機関車を使って運行している事業者も多く、早晩代替車両が必要となる時期が訪れるだろう。はたしてその際に「スマートロン」が選ばれるか、今後が注目される。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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