今のGAFAは「独裁政権の黎明期」に似ている 覇権4強が得意とする「制度戦略」とは何か

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――なぜ注目を浴びないのでしょうか。

人間が最も意識するのは、目先の便益だからではないでしょうか。私たちは日常生活の中で、たとえば、アフリカの飢餓に苦しむ人々やシリアの空爆の様子をどこか遠い話として聞いています。リアリティを感じることができないのです。

原理はこれと同じではないでしょうか。GAFAの闇の部分があったとしても、私たちが実感するのは「アマゾンって便利だなあ」「フェイスブックで昔の友達が出てきたぞ」というサービスの利便性だけで、個々のユーザーにとって闇の部分はどこか遠い話になっています。

これは「独裁政権が誕生するとき」と似ているともいえます。歴史を振り返ると、独裁体制はとたんに構築されるのではなく、短期間でも段階的なプロセスを経て構築されている。独裁体制をもとうとする勢力は、既存の枠組みのうえで、意思決定者に十分な便益を与え続けることでその支持を高め、既存のプロセスを経て、皇帝や総統となったのです。いったん権力を手に入れれば、そのあとの暴走をとどめるモノはありません。気付いたときには手遅れになっていることもある。

もっとも、GAFAのなかでアップルだけは少し違うようにも感じます。ほかに比べれば個人情報を使わないよう自制しており、あからさまに批判を受ける行為もそれほど目立ちません。本書でも、アップルはブランドが強いという内容が主軸となっており、他社に比べるとややトーンが異なります。

もちろん、正直者がバカを見るという未来もありえます。データを駆使していないからこそ、逆にアップルはあらゆる領域で立ち後れはじめているという指摘もあるでしょう。フェイスブックやグーグルは膨大なデータを駆使したサービス展開に圧倒的な投資をしているからこそ、利便性や楽しさをユーザーに提供できているという見方もできるからです。

「支配力」について、考えることが重要

――GAFAが持つ「支配力」については、どうお考えですか。

本書の帯には「次の10年を支配するルール」と書かれています。たしかに、アマゾンのレコメンデーションエンジンは誰が何を買うかを一定以上の影響力で決めていくでしょう。グーグルの検索結果が人間にとって何が有益で何が有益でないかを決めていく時代がすでに訪れているともいえます。フェイスブックは意図的でないしろ、人間の感情に対して何らかのはたらきかけをしています。

『経営戦略原論』(琴坂将広著/東洋経済新報社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

こうしたことを考えると、特殊な存在となりつつあるGAFAというプレイヤーが、新しい時代を作りつつあるのは事実かと思います。もちろん、栄枯盛衰を繰り返す可能性は十分にあります。新しいプレイヤーがこの支配力を塗り替えるような影響力を行使する時代が来るのかもしれません。しかし一つの可能性として、GAFAが今以上の支配力を行使する時代が訪れる可能性があるのは事実です。

本書では、後半になるとGAFA「以後」の世界で生き残るにはどうしたらいいかという話が出てきます。「なるほど、そうきたか」と私は思いました。ここは大学のゼミで学生たちと議論したいところです。GAFAが次に狙うのは何か、GAFAのポジションを崩す存在は出てくるのか、そのとき私たちはどう生きるのか。こうした議論をするにはうってつけの材料です。

単にGAFAという事例を考えるだけではありません。この事例を通じて自分たちのあり方を考える、そのきっかけになるような本だと思います。いわば「思考の具材」になりうる。そこはギャロウェイ氏の筆致のすばらしさゆえでしょう。GAFAという誰もが知っている顕著な事例に対して、この分野における経験の豊富な著者がじつによくまとめた本、それが『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』ではないかと思います。

(聞き手、構成:笹 幸恵)

琴坂 将広 慶應義塾大学総合政策学部准教授

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ことさか まさひろ / Masahiro Kotosaka

慶應義塾大学環境情報学部卒業。博士(経営学・オックスフォード大学)。小売り・ITの領域における3社の起業を経験後、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に勤務。同社退職後、オックスフォード大学サイードビジネススクール、立命館大学経営学部を経て、2016年より現職。上場企業を含む数社の社外役員および顧問、仏EHESSのアソシエイト・フェローを兼務。専門は国際経営と経営戦略。

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