トランプの貿易戦争が国内で支持されるワケ 3つの政治的背景、とりわけハイテク覇権

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一方、中国が輸入自主拡大や輸出自主規制などの形で譲歩すれば、制裁関税はトーンダウンする。だが、両国間の貿易戦争がこれで収まるかといえば、答えはノーだろう。ここで大きな影響を与えるのが、政治的背景③のハイテク覇権だ。

佐橋氏は、「ナバロ氏ら経済ナショナリストは、貿易赤字が解消すれば満足するだろうが、アメリカにおける対中警戒論はその域を超えてしまった。このままでは、先端技術や経済面で中国に対して優位性を保てないと安全保障関係者が強い危機感を持つに至ったためだ」と言う。

2030年前後に中国はアメリカをGDP(国内総生産)規模で抜き、世界最大の経済大国になるとの複数の予測がある。また、アメリカ議会の諮問機関である米中経済安全保障調査委員会(USCC)は、情報通信や製造技術、電気自動車、医療・ヘルスケアの分野など多くで長期的(10年以上先)に中国はアメリカと互角か、アメリカを抜く可能性があることが報告されている。

このため、アメリカは制裁関税だけでなく、中国の技術窃取を防ぐため、対米投資規制や輸出管理規制の強化も進めている。

具体的には、外国企業によるアメリカ企業の買収案件がアメリカの安全保障の脅威になり得るかを審査する対米外国投資委員会・CFIUS(Committee on Foreign Investment in the United Statesの略)について、その権限を強化する法案を議会で審議中。少額投資や合弁事業、軍事施設周辺の不動産取得などについても審査の対象とするものだ。大統領は、このCFIUSの勧告に基づいて外国企業の買収を差し止める権限を持つ。また、トランプ政権は、最先端・基盤技術について輸出管理規制の見直しと強化も進めている。

歴史的、大局的に見れば、今は米中逆転を迎えつつある中、覇権国・アメリカが何らかの対抗策を出すときだ。このため、③のハイテク覇権に関しては、トランプ大統領の存在を超越して、議会や産業界も問題認識は一致している。2020年のトランプ大統領の再選か否かにかかわらず、長期的な政治的な動機として続くと考えるべきだろう(関税などがその有力な手段になるかは不明だが……)。

いよいよ矛先は日本の自動車産業に

こうした中で、自動車・部品の追加関税は、最先端の電気自動車の基盤技術、社会インフラの側面もからむため、ハイテク覇権の政治的動機の対象となることは見逃せない。

ロス商務長官は、同関税に関する調査報告書を8月中に提出する意向を示しており、小野氏は「自動車・部品の追加関税は早い段階で発動される可能性がある」と警戒する。8月から始まる新通商対話・FFR(free<自由>、fair<公正>、reciprocal<相互的>の略)で日本から譲歩を得られなければ、トランプ政権は発動に動く可能性があるが、その際は日本車メーカーの業績に打撃を与えることになりそうだ。

トランプ大統領が始めた貿易戦争は、長期的に世界の政治経済の構造を変えそうだ。日本は、政府も産業界も腰を据えて、アメリカの戦略に対応していく必要がある。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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