トランプの貿易戦争が国内で支持されるワケ 3つの政治的背景、とりわけハイテク覇権

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①の政治的支持基盤から見ていこう。

現在、トランプ大統領の支持率は40%程度。2017年夏~2018年初頭までの30%台半ばに比べると改善している。この支持率の過半は、「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」と呼ばれる地域の白人不満層で、トランプを応援する岩盤支持層だ。これらの人たちの職場は、自動車では日欧メキシコ、それ以外の工業製品では中国などに押されているため、トランプ大統領にとっては、貿易をスケープゴートにすることで支持基盤を固めることができる。

なお、ロシア問題などで味方の議会共和党からも反発を受けていたトランプ大統領だが、現在の政治基盤は強固な状態だ。

米国政治に詳しい神奈川大学の佐橋亮教授はこう語る。「共和党支持者の約9割は現在、トランプ大統領を支持する。議会共和党も実際には昨年末に可決した大型減税や軍事予算増額、保守派の最高裁判事任命など、トランプ大統領の下で積年の共和党の政策課題がいくつも実現しており、もはやトランプ大統領の足を引っ張れない状況だ」。

②の貿易赤字悪玉論は、トランプ大統領の持論。「トランプ大統領は、貿易をゼロサムの観点で貿易黒字国が勝者、貿易赤字国が敗者ととらえている」(住友商事・渡辺氏)。

加えて今年3月、貿易政策をめぐり、政権内で勢力交代が起きた。自由貿易を重視する国際派のゲーリー・コーン氏が国家経済会議(NEC)委員長を辞任し、保護貿易派の経済ナショナリストであるピーター・ナバロ通商製造業政策局長やロバート・ライトハイザー通商代表部(USTR)代表が台頭した。

特にナバロ氏は対中強硬派の代表格として知られる。6月には「中国の経済攻勢がいかに合衆国と世界の技術や知的財産を脅かすか」と題されたホワイトハウスの調査リポート(通称ナバロリポート)を提出。中国がスパイ活動や窃取などにより、アメリカの技術的・経済的優位性を危機に陥れていることを力説している。

貿易赤字悪玉論では、アメリカの貿易赤字の半分弱を占める中国、製品別で最大の1/4を占める自動車・部品がターゲットとなる。

欧州は歩み寄りも、中国はまだ譲歩せず

「関税をやめて欲しければ、買い物リストを提示しろというのが、トランプ大統領の姿勢」(みずほ総合研究所の小野亮主席エコノミスト)だが、自動車・部品の追加関税検討では早くも成果を得た。7月25日のユンケル欧州委員長とトランプ大統領の会談により、EU(欧州連合)はアメリカからの輸入拡大を図るための貿易交渉を開始することで合意したからだ。

一方、対中制裁では、アメリカ、中国ともなお譲歩する姿勢を見せていない。8月3日、貿易政策では中心的役割を担っていないマイク・ポンペオ国務長官が東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連会合で王毅外相と貿易についても協議した。だが同日夜、中国政府は約600億ドル相当の対米輸入製品に対する報復関税措置を発表するなど貿易摩擦は一段とエスカレート。

「水面下ではスティーブン・ムニューシン財務長官と劉鶴副首相が接触し、本格的な協議再開に向けて動き始めたといわれているが、現在もまだ両国の政府高官による追加関税回避のための協議は中断されている」と住友商事の渡辺氏は指摘する。

第3弾の2000億円相当の追加関税では、AV機器や家具などの消費財が一部に含まれるものの、アメリカの実体経済に与える影響は軽微とエコノミストは試算している。ただ、両国間で報復関税が一段とエスカレートしていけば、「アメリカ経済は大丈夫かとどこかで金融市場が動揺して、それが新興国への悪影響として波及していくリスクはある」とみずほ総研の小野氏は語る。

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