私の歯を住宅用洗剤で磨かせた精神病の母へ

誰にも助けを求められなかった

おまけに、混乱のただ中にあって私は無意識のうちにある結論に達し、そこから一歩も動けなくなっていた。母の行為は私が背負うべき問題であり、そうでない何かを期待したりすべきではない、と。

いい子の仮面の下で、目に見えない傷は化膿していた。私はどの科目でもいい成績を取り、毎年9月には新学年に備えて新しい学用品をきちんとそろえていた。医者の聴診器では、つねに付きまとう不安感といった私の真の症状や、私の臓器を覆ううつろな孤独を見つけることはできなかった。

母はごまかしの名人だった

ごまかしの名人だった母の病気も発覚することはなかった。母は自分を普通に見せかけようと途方もないエネルギーを投じていた。仕事も続けていたし、健康的な食事を作り、車で私のフィギュアスケートのレッスンの送り迎えをし、私の学校でボランティアもした。リンク脇で見学中、私の腕や足の動きが間違っていると言って友人たちの親や先生やコーチのいる前で怒りを爆発させることもあった。だが、母の行動に異変を感じたとしても、誰も何も言わなかった。

周囲の人たちに何が言えただろうか? ストレスで混乱した思春期の子どもや、批判されると防御的になるその母親と、建設的な会話を始められる可能性などほとんどない。だが私の中の子どもは長年にわたってしみついた孤立の悲しみから今も立ち直れていない。

私たち親子が実際には大変な状態だったのに、周囲の人々は大丈夫だと思っていたと考えるとつらくなる。もしかすると大丈夫だとは思ってはいなかったけれど何も言わないことを選んだのかもしれない。苦しんでいる人がいるのに、礼節など何の役に立つというのだろう。

もっとも当時、関心をもって話を聞く以外に彼らに何ができたかというとわからない。大人と子ども時代の私の目が合い、その同情が私の絶望を包み込んでいくところを想像すると、息が詰まりそうになる。一瞬でもいいからそこに飛び込んでみたいと思う。だが私は同時に、誰かが手を差し伸べることでもっとひどい混乱が起きるかもしれないと恐れていた。子どもだった私は、小さな私の家族を引き裂く可能性のあるものを恐れていたのだ。

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