地方への政府機能移転にほぼ意味がないワケ 望ましいのは国に集中する権限の一部委譲だ

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国の行政機能を地方に移すというのなら、その一部を地方に投げ売りするようなことはやめたほうがいい。国会や内閣府を移すのならそれなりの効果はあるだろうが、今度はそこに新しい東京が形成されるだけだ。遷都論も同じことである。

地方移住のために望ましいのは、一部の国の機関や組織を移すことではなく、国に集中している権限の一部を都道府県に移していくことだ。

地方の特色に合わせた権限移行が重要

都道府県庁をミニ国家として各地で独自の政策が展開できるよう、分権化を進めることであり、そのことによって東京でなければできないことが減り、地方でも(地方でこそ)できることが増えれば、その地の特色に合わせて国のオフィスの一部をその地に持って行くこともありえよう。

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東京に集まっている人材が地方へも還流することになる。

(なお、その地方分権の実験であったはずの国家戦略特区が加計学園獣医学部新設をめぐる問題を引き起こした。地方分権が言葉でいうほど簡単なものではなく、いかに繊細なものなのかについてもちろん、私たちは十分に理解しておく必要があろう)。

逆にいえば、国と地方のバランスが崩れた現在のままでは、東京に集まる人の流れは止まらない。人の移住は無理に進めるものではないし、また止められるものでもない。上手に調整していくしかないものだ。

そしてその手法はいま、地方移住希望者の増大という現実の変化にもあらわれてきており、移住者が地元の各層につながって新しい人間関係が生まれ、それがまた新しい動きを生み出している。新たな結婚、出生まで各地で生じている。それらの意義を正確に見定め、分析することで、そう遠くないうちに確かなものが生まれてくると筆者は考えている。

山下 祐介 首都大学東京都市社会学部教授

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やました ゆうすけ / Yusuke Yamashita

1969年生まれ。九州大学大学院文学研究科博士課程中退。弘前大学准教授などを経て現職。専攻は都市社会学、地域社会学、農村社会学、環境社会学。東北の地方都市と農村漁村の研究を行い、津軽学・白神学にも参加。主な著書に『限界集落の真実』『東北発の震災論』『地方消滅の罠』『地方創生の正体(金井利之氏と共著)』(以上、ちくま新書)、『「復興」が奪う地域の未来』(岩波書店)、『リスク・コミュニティ論』(弘文堂)、『白神学 1~3巻』(ブナの里白神公社)がある。

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