「不機嫌な40代」が職場をむしばむ根本理由 実は貫録なんてないほうがいいかもしれない

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齋藤:理由もなく不機嫌な顔をしたり、下の人に無理やりハッパをかけたりしても悪循環になるだけです。セクハラ、パワハラも社会問題になっていますし、高圧的な態度で人を動かす時代はもう終わりと思ったほうがいいでしょうね。

昔は「北風」で部下が動いていたのかもしれませんが、今は「太陽」のように穏やかでニコニコした人のもとで働きたい人がほとんどでしょう。威張らず、柔らかく、上機嫌に部下に接してみる。それは仕事を円滑に進めるために大変有効ですし、結果として自分自身のアンチエイジングにもなるんですよ。

名物塾講師が1年間同じ型の服を着続けたのは

矢部:「上機嫌が人を動かす」という意味では、僕にとっては大家さんがまさにそういう存在だったんですね。安定して上機嫌な大家さんと接することで、こちらも気分が上向きなまま自分の仕事に打ち込めた気がします。

齋藤:安定感のある人といると自分も安心しますよね。駿台予備校の英語講師で、伊藤和夫先生という名物教師がいました。『英文解釈教室』などの参考書で有名な方で僕も授業を受講していたのですが、彼は1年間、まったく同じ型の服を着ていたんです。授業の口調も一定。不思議に思っていたらあるとき、「私は職業倫理でそうしています」とおっしゃった。つまり、教師も人間なので感情の起伏はあるけれど、そんなことは生徒に関係ない。だからできるだけそれを見せないよう、つねに一定の状態で接するんだと。

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矢部:ズボラなのかと思いきや、実はそれによって周囲を安心させていたんですね。

齋藤:その意味で矢部さんの大家さんの持つ「安定した上機嫌」は、今こそ必要とされていると思うんです。つねに上機嫌でいることが人を前向きに動かし、働きやすい環境を作り出す。ビジネスマンが目指すべき理想像は、大家さんかもしれませんね。

矢部:まさか大家さんの上機嫌がビジネスに役立つとは! 先生の『不機嫌は罪である』も働くすべての人に読んでほしいです。不機嫌な人が1人でも少なくなれば……とりあえず、ほんこんさんにはマストで読んでもらいます!(笑)

(構成:出来幸介)

矢部 太郎 お笑い芸人

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やべ たろう / Taro Yabe

1977年東京都生まれ。お笑いコンビ「カラテカ」のボケ担当。初めて描いた漫画『大家さんと僕』が第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞し55万部突破のベストセラーになっているが、相変わらずバラエティでは緊張してうまく喋れないのが悩み。最近では、舞台や映画などで俳優としても活動している。父親は絵本作家のやべみつのり。

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齋藤 孝 明治大学教授

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さいとう たかし / Takashi Saito

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著者、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『読書力』(岩波書店)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『質問力』(筑摩書房)、『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)、『読書する人だけがたどり着ける場所』(SBクリエイティブ)ほか多数。著書発行部数は1000万部を超える。

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