北朝鮮で「英語ができる人」が重宝される理由 政府のプロパガンダとは裏腹に…
もちろん、映画で描かれたこのような世界は、現実とはまったくかけ離れている。北朝鮮では外国語を自習しようにも、教材も含めて、本物の外国語に触れる機会が圧倒的に不足しているからだ。
このような非現実的なシーンを映画に登場させる狙いは、外国語を真剣に学習することの価値を貶めることにある。外国語学習に多大な労力を投入するのは有害だと言わんばかりだ。しかし、外国語とは違って、金日成主席の革命運動や核物理学といった政治的に重要な学問領域で、このような手抜きが推奨されるようなことは絶対にない。
親たちは子どもに外国語を習わせたい
北朝鮮映画の中で、さらにひどい扱いを受けているのが職業的に海外とやりとりする翻訳者や通訳者たちだ。このような外国語のプロは、お高くとまった嫌みな人物や、海外の悪い影響を受けて「転向」してしまった人物として描かれることが多い。
『私たちの香り』(2000年)に出てくる女性通訳のセピョルが、その典型だ。セピョルは外国人に対しておべっかを使い、北朝鮮を見下したような態度をとっていたが、外国語を一切話さない国粋主義的なキムチ研究家との出会いによって、失われた愛国心を取り戻す。
全般的に言って、北朝鮮のプロパガンダは、外国語の知識を政治的にいかがわしいものと位置づけている。だが、現実を変えることはできていない。北朝鮮で翻訳や通訳に携わる人々の地位は実際には極めて高く、医師や教師が手にしているステータスをもはるかに上回る。収入も非常に高い。そもそも、外国語を身につければ、それだけで進んだ海外に近づくことができるのだ。現代の北朝鮮では、子育て中の親は教育熱に浮かされ、誰もが子どもに外国語を身につけさせようとしている。
北朝鮮の人々の外国語スキルが向上するかどうかを見極めるのは、確かに時期尚早だろう。とはいえ、はっきりしてきたことが1つある。1980年代の『コリア・トゥデイ』に見られたような滑稽な誤訳は過去のものになったということだ。北朝鮮の海外向けプロパガンダで使われている外国語は、昔に比べると、はるかにクオリティが上がってきている。
(文:タチアナ・ガブロセンコ)
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