「まるで旅客機」インドネシアの新型夜行列車 グランクラスよりも快適、日本を超えたか?

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現在では改札時に読み取ったチケットのQRコードが、車掌端末に転送され、指定座席へ着席している乗客への検札の省略も実現している。この端末には身分証明書の情報も併せて転送されており、軍人による車内巡視と併せて、乗客は管理されることになる。指定以外の場所に着席した乗客には身分確認が実施され、証明できない場合、また車内を頻繁に移動しているなどの不審行動があった場合、最寄り駅で強制下車となる。

LCCに乗るような感覚で列車に乗れてしまう

これら施策の下、駅と車内の秩序は保たれることになった。当時、これらの改革は強硬的手法として批判されることも多々あったが、結果的に乗客は良好なサービスにすっかり手なづけられている。特に後者の面においては、インターネットを活用したチケット販売チャネルを広げることで、駅窓口に並ぶストレスから利用者を解放した。

チェックインカウンター(筆者撮影)

KAI公式ページのほかにも、民間の旅行予約サイトからも同様の手順でチケット購入ができ、さらにコンビニのマルチ端末や、スマートフォン向けアプリケーションからも可能である。日系コンビニエンスストアのローソンでもチケットの購入は可能だ。代金支払い後、受信メールに記載された予約番号を乗車前に駅の「チェックイン」端末に入力し、「ボーディングパス」を発券、あとは改札で身分確認を済ませれば準備完了である。

煩雑な手荷物確認などは実施していない。前述のネーミングが示すとおり、チケットの購入から、乗車まで国内線LCCに乗るような感覚で、列車に乗れてしまうわけだ。この画期的なシステムもまた、これまで列車に乗らなかった新たな客層の取り込みに成功している。

かつての駅券売窓口は「ビアードパパ」に(筆者撮影)

駅の窓口は残っているものの、今や乗客の8割以上が窓口以外でチケットを購入している。削減された駅窓口の用地は、駅ナカの店舗用地に転換されている駅も多い。たとえばジャカルタ・ガンビル駅の旧窓口は、日本でもおなじみのシュークリーム店、「ビアードパパ」になっている。

もちろんこれら施策が成功したのは、一部利用者の切り捨てを行ってもなお豊富な輸送需要があるからこそだ。走らせれば走らせるほど利用者がいるというのは、日本人からするとかなりうらやましい話である。ただ、列車の高級化という点においてはどちらも共通している。しかし、戦後の買い出し列車のごとくであったインドネシアの鉄道が、わずか数年でここまで進歩するというのは、驚くべきことだ。日本の国鉄改革を見習ったとも言われるインドネシアの鉄道改革であるが、今後はサービス面を中心として、逆にわれわれが学ぶべき事象がインドネシアから生まれてくるかもしれない。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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