ついには、そのベンチャー企業に転職するとの報告が筆者にありました。Sさんには転職後、経営企画室室長という肩書が用意されていました。
「今より風通しのいい職場で活躍できることを楽しみにしています」
と自信満々で転職をしていったのを思い出します。それから1年半が経ったころに、職場の飲み会にSさんが参加してきました。同期社員のお祝いに駆け付けたようですが、顔つきに覇気を感じることができませんでした。以前なら文句は言うものの、仕事には情熱的に取り組む姿勢が印象的な、周囲からも頼りにされる存在でした。そんなSさんが自信をなくしているように見えたのです。そして、筆者のそばに寄ってきて
「ご無沙汰しています。以前は無礼な発言ばかりで失礼いたしました。相談があるのですが、改めて時間をいただけないでしょうか?」
と声をかけてきました。その翌週に面会して話を聞くと、出戻りたいとのことでした。転職したベンチャー企業で経営企画室長になったものの、会社の経営は外からみていたものとはかけ離れていたようです。経営者は社員に対して過酷なマネジメントを強いており、待遇は劣悪。とても成長など見込めない、さらに、自分に対して経営者たちは
「君に意見される筋合いはない。言われたことをやってくれればいい」
と何も口出しできない立場にすぎなかったようです。「どうやら、隣の芝生が青く見えただけで、元の職場環境は恵まれていたようだ。叶うならば、前の職場に戻ってやり直したい」。そう感じたようです。
貴重な戦力となった
筆者はSさんの要望に即答は避け、何回かの面談を重ね、社内での検討を行い、再雇用を決断しました。その後、再雇用されたSさんは以前のような文句を言うことはなく、新たな気持ちで活躍してくれたと記憶しています。また、社内で不満を感じている後輩社員に対して
「隣の芝生は青く見えるかもしれないけど、それほど甘くない。自分自身が実感したから、その失敗談を話してあげるよ」
とたしなめる重要な存在にもなってくれました。
Sさん以外にも何人か再雇用をしましたが、それぞれに貴重な戦力となってくれました。
ちなみに再雇用のきっかけは、本人からの直接応募が半数を超えているとの調査もあります。再雇用したことがある企業がいう理由は「即戦力を求めていたから」「人となりがわかっているため安心だから」という回答が上位を占めます。それに加え、会社にとって貴重な戦力の「復活」として、期待も大きいことでしょう。
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