中古地下鉄車が変身、英「新型気動車」の実力 「低コストで新車同様」、新興メーカーが開発

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こうしたコストの抑制は、赤字に苦しむ地方ローカル線の運行会社はもちろんのこと、多くの鉄道会社にとって非常に大きな助けとなることだろう。

工場内で製造が進められる、ウェストミッドランズ・トレインズ向けの230系車両(提供:Vivarail Ltd.)

現在、230系はケオリスアメイ社以外に、すでにウェストミッドランズ・トレインズ社とも3両2編成を導入する契約を結んでおり、こちらは一足早く本年12月より、ベッドフォード―ブレッチリー間で営業運転を開始する予定となっている。ウェストミッドランズ・トレインズ社は、日本のJR東日本および三井物産が出資している運行会社として以前ご紹介しているが(2017年8月17日付記事「JR東日本が英国で鉄道運行する『本当の狙い』」)、ベッドフォード―ブレッチリー間はその1路線である。

低コスト車製造の新形態になる?

このように、一見順調に進んでいるように見えるヴィヴァレイル社のプロジェクトだが、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。2016年12月30日には、実験線で走行試験中だった230系の床下から火災が発生、原因の究明と再発防止策が講じられるまで、テスト走行も中止となった。

その後の調査で、火災の原因はエンジンに搭載されたターボチャージャーからの燃料(高度に圧縮された混合気)漏れで、そこに引火したことで火災へとつながったことが判明した。営業運転前のテストで乗客はいなかったこと、また30分間にわたって燃え続けたものの、客室への影響が最小限だったことは不幸中の幸いであったが、この火災事故によって営業開始の時期は少々遅れてしまった。

とはいえ、営業開始前にトラブルの洗い出しができたうえ、長時間にわたる火災に対する耐久性が図らずも実証された、と前向きに考えることもできる。

都市部で活躍した後、新車への置き換えによって廃車となり、そのままスクラップとなるはずだった大量の中古車両をうまく活用し、低予算の車両を製造するという、これまで前例のない新たなビジネスモデルとして、ヴィヴァレイル社の取り組みは注目される。

現在、納入が決まっている2社以外に、同車両を採用する会社が出てくるか否かは、ここでの成功に掛かっていると言えよう。ヴィヴァレイル社は、230系で培われた技術をベースに、将来的には完全新設計の車両開発も視野に入れており、今後の展開から目が離せない。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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