西洋は「信じる宗教」、日本は「感じる宗教」

山折哲雄×上田紀行(その4)

日本の治安のよさは二大教団の役割が大きい

山折:今、おっしゃったのは重要な問題ですよ。日本の宗教全体を見ると、本願寺教団と創価学会教団がものすごく大きな影響を与えている。対内的にも対外的にもね。信者数も非常に多い。

この2つに共通するものは何か。一方は一向一揆、一方は法華一揆という宗教戦争を、歴史の上で体験していること。そういう点では、教義なり伝統の中に過激な思想を含み込んでいる。

ところが、過激な宗教行動に出ると、必ず社会的な圧力を受けるので、戦略としてそれをマイルドなものにずっとしてきている。だけど、ときどき噴出するわけです。

本願寺教団の「靖国反対」なんていうのは、一部の人間がしょっちゅうやっている。またかというようなものでね。創価学会教団の「国立戒壇」は、今は引っ込めているが、何かというと噴出する。

そういう根を持った、宗教戦争の記憶を持った二大宗教教団。これは絶対に手を握らない。ほかの中小の宗教教団とも手を握らないという不思議な関係になっている。

それが全体として、どういう効果を日本の社会に与えているか。安定させる効果を担っていると私は思いますね。しかも、創価学会は国際社会では日本の宗教としていちばん知られているのに、国内的には無関心です。ほとんど手を触れない。それが微妙な調和を保っている。

日本の治安のよさは、この二大教団が非常に大きな役割を果たしていると思っています。単に警察が優れているからではない。しかし、それは誰も言わない。批評家も政治学者も言わない。

上田:確かにそうですね。都会で暴動が起こってもおかしくないような創価学会の層に対して、あれだけ昇華させて、お題目を唱えて、なおかつ物欲を否定せず、そしてアイデンティティも与え、仲間も与えていくというね。しかし浄土真宗と創価学会を並べるというのは驚きました。創価学会と似ているといったら、浄土真宗の人たちは怒っちゃうでしょうけどねえ。

山折:過激化するとどうなるかもわかっている。それを抑え込む技術も心得ている。そういう見方を誰もしないんだ。宗教学者も人類学者も研究しない。この二つの大教団は比較して研究すべきですよ。

上田:なるほど、そもそも抑え込む技術なんですね。本願寺教団が「他力」「他力」と言って、「他力本願」を「人任せ」と誤解されるのはいかん、それは阿弥陀さんの力だから、と言いますが、あれだけ「他力」を曲解して人々の行動の契機を削ぐ、みたいなことを大規模にやってきたわけだから、人々が「他力本願」を誤解して当然だろうと私は思います。当たり前じゃないですか、ねえ(笑)。

山折:みんなが「他力」を誤解することによって、本願寺教団を温かく包み込んでしまうというところがある。あれ、「悪人正機」(悪人こそ救われる)だったら誰も認めませんよ。「善人正機」なんだよ。やっぱり。「善人正機」で大衆化していくわけだからね。「いい人間になりなさい、いい人間になりなさい」と言っているんだ、現実は。

そして「おかげさま」「おかげさま」、「感謝」「感謝」と言って教えこんでいる。かつての宗教一揆のとんがった思想なんて、もう誰も継承していませんよね。だけど記憶にはある。創価学会も同じ。

まあ、基本線は日本の社会を安定させる二大勢力。私の中ではそういう認識だな。

上田:仏教って本来、そんなに安定させるものではないでしょう。普段、気がついてはいけないことに気がつかせちゃうものですから。

山折:それは13世紀ですよ。13世紀の宗教者は、わが国における軸の思想を形作った。これから日本が国際的に何か存在感を強化するうえで何が必要かといったら、やっぱり13世紀なんです。自信や価値観の源泉みたいなものは、あそこにしかない。でも誰も気がついていない。これは悲劇的です。

西洋人は知っていますよ。ソクラテス、プラトン以来の伝統がいかに重要かということを。ところが日本人はそれがない。これがやっぱり教養の重大な質の違いでしょうね。

(司会:佐々木紀彦、構成:上田真緒、撮影:ヒラオカスタジオ)

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