正社員への「手当」は今後確実に減少していく 2つの最高裁判決は給与体系をどう変えるか

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しかし、今の労働法でそれをするのは容易ではありません。なぜなら、一度上げた給料はなかなか下げられず、基本的には年々給与が上がっていくという労使慣行があり、一度採用された正社員は定年まで原則として解雇できないからです。

さらに言えば、多くの日本的企業が取り入れてきた賃金制度には、職能資格制度というものがあります。これは年功序列とも言われる賃金制度で、基本的には賃金を「職能資格」というランクに基づいて支払うというものです。では職能資格はどのように測るかというと、現実に能力が上がったかどうかについてテストや評価をするわけではないということがキモです。「1年経つと職業能力が高まる」というフィクションに基づき、年次が上がると職務遂行能力が上がったことにするわけです。

適切な職務遂行能力の評価が必要になる

しかし、現実にはどうでしょうか。1年在籍したからといって必ず皆1年分成長しているでしょうか? 「全員一律に」ということは、実際にはありえず、個人の努力や意識の違いで大きな差がつくことは明らかではないでしょうか。同一労働同一賃金政策の下では、「正社員だから」「勤続何年だから」という理由ではなく、具体的にどのような業務内容を担当し、スキルを有しているかにより賃金を支払うべきとされています。そこでは、フィクションではなく、職務遂行能力が本当に高まったのかという評価を適切に行わなければなりません。

仮に、企業が職務遂行能力の評価を適切に行うようになれば、頑張っている人やスキルがある人が評価されるようになるでしょう。逆に、正社員の地位に甘んじてスキルアップを怠る人は評価されなくなります。これが同一労働同一賃金の本来の姿です。しかし、本当の意味でこれを実現するためには、適切な能力評価に基づいた賃金の変動や雇用保障のあり方についても検討する必要があります。一度上げた給料はなかなか下げられず、一度採用された正社員は容易に解雇できないという労働法の根本を改める必要があるのです。

企業はこれまで、景気が悪く変動したとき、雇用保障の弱い非正規雇用者のクビを切ることで人件費の調整をしてきました。しかし、今後は正規か非正規かという区別で考えることを改め、不公平な差がつきやすい手当を廃止するなど、「正社員」という立場を根拠に支払われていたおカネが消えていくことによって、調整が行われていくことになるでしょう。

しかし、筆者はこの方向性について、根本的な雇用慣行の見直しを行う契機になるという意味では喜ばしいことだと考えています。最高裁判決が出され、来年には法改正の施行も予定されている中で、「正社員だから給与が高い」のではなく、「何々のスキルがあるから」「何々の業務を担当しているから」給料が高いというほうが公平ではないでしょうか。

給料を上げるためには、自らのキャリア、スキルを意識して、これを伸ばしていく努力を「自分で」やることです。会社が賃上げしてくれるのを待っている時代ではありません。「正社員だから」なんとなく給料が上がっていた人は今後大変になっていくでしょう。それが本当の意味で同一労働同一賃金政策が目指すところの「公平」であると筆者は考えます。

倉重 公太朗 倉重・近衛・森田法律事務所 代表弁護士

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くらしげ こうたろう / Kotaro Kurashige

慶應義塾大学経済学部卒。第一東京弁護士会労働法制委員会 外国法部会副部会長。日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員。日本CSR普及協会雇用労働専門委員。労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、社会保険労務士向けセミナーを多数開催。著作は20冊を超えるが、代表作は『企業労働法実務入門』(日本リーダーズ協会 編集代表)、『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか(労働調査会 著者代表)。

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