女を使えない企業が、世界で戦えますか? 上野千鶴子先生に聞く、日本企業と女の今

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――確かに、女性上司、ワーキングマザーの上司が増えたことで、逆に言い訳無用で厳しくなったと言う女性もいます。女同士が手を取り合うとまでは言わなくとも、不公平感をなくす施策はあるのでしょうか?

時短を取っている社員の給料は、その分減るわけだから、ペナルティは支払ってるはず。時間の長さに左右されず、個人の業績が上司にきちんと査定評価されていれば、不公平感はないはずだけど。

結局、業績ベースの査定評価が機能しない年功序列と、新卒一括採用の「日本型雇用慣行」が維持されているから、どうにもならないという話に堂々巡りしちゃう。日本のオヤジは、結局、高度成長期の成功体験から目が覚めていないのだと思う。でも、そのツケは必ず巡ってくる。

”ノイズ”を利用するのは、情報工学基本のキ

――そのツケとは?

今や女性は国内外でこれだけ成熟した大きなマーケットを持っているのに、企業は発信力を持った女性を戦力化できないから、多様な商品やサービスを作れないじゃない。

今やダイバーシティとは、人権を守るという意味だけでない、生き残るための企業戦略なの。ところが、日本企業は外国人を入れるどころか、女を使うのにも四苦八苦している。外国人を使うより、女を使うほうがずっとラクで採用コストも安いのに。まず、言語が同じでしょ。教育水準が高いでしょ。文化が同じでしょ。こんな簡単なダイバーシティが実現できなくては、異文化圏の外国人を入れるのはもっとむずかしい。こんなオヤジ社会のせいで日本はジリ貧、泥船状態よ。

――女も使えない企業がグローバル化できるわけがないと。

そりゃそうよ。そんなわかり切ったことなのに、まだ日本の企業は体質を変えようとしないのだから。企業経営者は、とりあえず短期利益を上げて、目の前の不況をどう乗り越えるかしか頭にない。

本当に、創造力もなければ先を見通す力もないよね。60年代型の日本型雇用慣行は、同質的な人材を集めて、集団パフォーマンスを上げて、大量生産する時代にのみ通用したやり方なのに。

でも、今の日本はもはやモノ作り大国ではありません。モノ作り拠点は海外流出してどんどん雇用が空洞化している。今の企業は、どれだけ有効な情報付加価値を持っているかの勝負でしょう。

ところが、企業のオヤジはモノ作りの生産性と情報生産性を、いまだ同じに考えている。でもね、情報生産性はノイズのあるところにしか生まれない。情報とは、システムとシステムの間の落差にしか発生しないの。定常化したシステムの中に、情報は生まれない。ノイズの中からわずかな数パーセントが、情報価値を生む。これは、情報工学の基本のキ。オジサンはそんなこともわからないのよ。

――そう考えると、「ノイズ」たる女性を有効に活用できない企業は、ロクな情報を集められず、競争力が下がるということですね。

そうです。10年、20年の長期的なタイムスパンでみれば、時短を取って子育てを優先して、脇道に行ったように見えた人が、後々に会社にどんな利益をもたらすかわからない。なぜなら、その間に経験している、家事・育児・介護などの生活者としての経験が、その人のキャリアを必ずや豊かにしているはずだもの。コントロール不能な他者たる赤ん坊を育てた経験が、キャリアにならないわけがないじゃない。

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