音響機器の名門「オンキヨー」が直面する危機 5期連続最終赤字で債務超過が迫りつつある

拡大
縮小

難局を一度は切り抜けたオンキヨーだが、2000年代半ばからのスマートフォンの普及による音楽鑑賞スタイルの変化にはあらがうことができなかった。消費者は音楽をスマホに直接ダウンロードして聞くようになり、据え置き型のAV機器の需要が急減したからだ。JEITA(電子情報技術産業協会)によれば、この10年間で国内の音響機器市場は6割ほど縮小した。

こうした市場環境への対応策として、オンキヨーは車載用スピーカーや音楽配信事業に乗り出す。また2015年には、“オーディオ御三家”の一角であるパイオニアの音響事業を買収。規模の拡大によるコスト削減などにより再起を図ったが、結局現在はパイオニアブランドの欧州での不振がかえって足かせになっている状況だ。

止まらない市場縮小に、追い打ちをかける形となったギブソンショック。そんな逆風の中でオンキヨーが推し進めている施策の1つが、OEM(相手先ブランドによる製造)事業の拡大だ。たとえば、2017年春から展開されているシャープ製の液晶テレビ「AQUOS 4K」の複数モデルにはオンキヨー製のスピーカーが内蔵されており、「Sound by Onkyo」の表記がある。

OEMビジネスで再起を狙う

TCL集団と手を組んだのも、同社が主力とするテレビや音声認識機能のあるIoT家電などにスピーカーやマイクなどを供給することが主目的だ。ただ、TCL集団は内製率を高めて価格を下げ、アマゾンでの格安販売で成長した企業であり、オンキヨーがこれまで重視してきた高付加価値戦略とは路線が違うのが懸念点。突きつけられる部品の調達価格も、そう甘くはないはずだ。

伝統あるブランドの訴求力に頼れなくなった今、オンキヨーはブランドの看板を隠しOEM事業へと軸足を移して音響技術での直球勝負に挑む。2018年度は前期に断行した国内子会社の整理で固定費が軽くなることもあり、最終黒字10億円の大逆転に望みをかけるが、減少し続けるAV機器の不振をカバーするのは容易ではない。音響機器市場の荒波を乗り越えてきたオンキヨーは、この窮地を脱することはできるのか。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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