スーツ販売が低迷、紳士服大手が抱える苦悩 大手4社の既存店は前年割れ、ユニクロも攻勢

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紳士服メーカーが販売するスーツの売れ筋商品は、パンツとのセットアップで3万~4万円前後。青山の「THE SUIT COMPANY」や、AOKIの「ORIHICA(オリヒカ)」など、若者向けの業態では2万~3万円程度が主流だ。百貨店と比べれば安いものの、消費者の低価格志向が強まる中、さらに安い価格で販売する企業も出現している。

参入少ない半面、危機感薄く

代表格が衣料品大手のユニクロだ。今年の春夏アイテムでは、伸縮性や軽量感を重視した「感動ジャケット」を発売。同社の「感動パンツ」とセットアップで購入しても、1万円以内(税抜き)に収まる価格帯だ。

業界2位のAOKIホールディングスは最近、レディス商品の拡充に力を注いでいる(記者撮影)

スーツ以外のビジネスウエアでも、アイロン不要でコットン100%のワイシャツなど、素材感と機能性を兼ね備えた商品を低価格で投入している。「見た目のチープ感が多少あっても、若い人ほどコストパフォーマンス重視。以前と比べてユニクロは品質も改善していて、客の流出は止められない」(紳士服メーカー社員)。

さらにここ数年は、若年層を中心に衣料品をネット通販で購入する消費者が増加。アパレル市場のネット通販比率が約1割に達する一方、紳士服大手のネット販売比率は1~2%程度にとどまる。サイズ感や価格帯の面で障壁が高いとはいえ、各社のネット戦略には周回遅れの感が否めない。

ファストファッションはZARAやH&Mなど海外勢の攻勢も激しいが、新規参入の少ない紳士服業界では大手4社が市場のシェアを取り合う構造に変化が乏しかった。

スーツは一定の買い替え需要が見込めるうえ、流行の影響を受けにくい。トレンドの変化に応じて売り上げが浮き沈みしがちなアパレル企業と比べて、在庫の値引き処分に追われることも少なく、これまで業績は底堅く推移してきた。紳士服大手の幹部は「危機感が足りなかった。スーツ市場のパイが広がらない今、現状維持が精いっぱいだ」と率直に認める。

業績拡大への活路を見出そうと、青山は2015年に靴修理店「ミスターミニット」の運営会社を買収。AOKIも結婚式場「アニヴェルセル」のほか、カラオケやマッサージ店を展開し、事業の多角化を図る動きが加速する。もっとも、新事業が本格的に利益貢献するまでには一定の時間がかかる。縮小均衡をたどるスーツ市場に主軸を置きながら、今後の成長を実現するのは容易ではなさそうだ。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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