「クルマ王国」米国で進化した路面電車の実力 市街地の軌道を地下化、ライトレールに脱皮

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ピッツバーグのLRT車内(筆者撮影)

しかし結果的にはLRT化が決定。19世紀に完成していた鉄道用トンネルを活用してダウンタウンを地下化し、道路との併用橋はほとんど使われていなかった鉄道橋を譲り受けて専用化した。同時にPCCカーなどを使っていた車両も新世代の連接車に置き換えられ、1985年にレッドラインとブルーラインの2路線に生まれ変わった。

ピッツバーグLRTの車内にある路線図。左側に無料区間が描かれている(筆者撮影)

その後2012年にはアレゲニー川北岸へ延伸。MLBのパイレーツやNFLのスティーラーズの本拠地まで電車で行けるようになった。特筆すべきはダウンタウンとこの北岸区間を無料としていることだ。

ダウンタウンを無料とする手法はかつてポートランドも導入していた。都心で働く人が帰りにスポーツ観戦したり、筆者を含めた宿泊者が町歩きしたりするのに便利であり、こうした体験を契機にして定期利用につなげていきたいと考えているようだ。

アメリカではLRTと言わない?

2つの都市のLRTに共通することとして、ダウンタウンの地下化がある。地下化はたしかに建設費用が嵩むし、乗り降りに上下移動が伴うものの、信号の多い地上を走るより速達性・安全性では有利である。欧州でもドイツのボン、フランスのルーアンなどに地下LRTが存在する。一方で既存の軌道やトンネルを活用したり、他の交通事業者と共同で工事を進めたりするという合理的な判断も見ることができる。

現在米国には30以上の都市でLRTが走っている。最近ではデトロイトに昨年、Qラインと呼ばれるLRTが開業した。自動車産業とともに発展してきた都市にLRTが走り始めたというニュースは、米国でも移動に対する考え方が変わっていることを実感する。

ただし米国の記事でLRTの3文字を見ることは少ない。多くはライトレールと記している。日本語だけでなく英語でもLRTより言いやすいし、ライトレールのほうがストレートに意味が伝わりやすいためかもしれない。

ここまでLRTという言葉を使って書き進めてきたが、我が国でもライトレールという表現のほうが言いやすく分かりやすいのではないかと思っている。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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