ブルー・オーシャン戦略の知られざる本質 革新もいずれはマネされ競争にさらされる
「取り除く」の要素にある動物を使ったパフォーマンスは前述のとおり批判を受けていたうえに、購入・訓練・医療・飼育・保険・輸送とあらゆる面で高いコストが発生していた。犬や猫ではなく、サーカスで用いられるような巨大な猛獣を扱うことで多大なコストがかかることは容易に想像ができる。集客に必ずしも貢献しない花形パフォーマーもコストパフォーマンスは悪かった。
これらの要素は昔ながらのサーカスとして当たり前のスタイルでありながら、収益・集客にはさほど貢献せず、かえってコストアップにつながっていたため、シルクではバッサリと取り除く対象となった。そして大人向けの内容へと変えるため、笑いとスリルといった要素も減らされた。
引き算を行う一方、ほかのサーカス団が一般的なホールで公演を行う中でサーカス本来の魅力であるテントでの公演にこだわり、テーマやストーリーを付け加えることで大人の鑑賞に堪えうる水準まで芸術性を引き上げ、多数の顧客を集めたうえにチケットをより高く売ることに成功した。
執筆時点で日本国内でもシルク・ドゥ・ソレイユの公演が行われているが、チケット価格は正面最前列の特典付SS席がお土産などもセットで2万円、全体のほとんどを占めるSS席は1万2500円と、一般的な舞台公演やコンサートと比較してかなり強気のチケット価格となっている(いずれも平日。土日は1000円の上乗せ)。
シルクの事例を見ればわかるように、一言で表現すれば「メリハリ」をつけることでコストと品質のトレードオフを壊すことがブルー・オーシャン戦略の基本だと言える。
顧客のニーズにフィットする形で製品・サービスにメリハリをつけることで中身もコストも他社とまったく異なるプロダクトを生み出す。商品からコスト構造、そして製造や提供の過程に至るまで一気通貫となっており、ブルー・オーシャン戦略はまさに「戦略」と呼ぶにふさわしい。
商品開発やセールスやプロモーションなど、「戦術」や「戦闘」レベルにとどまる工夫ではビジネスモデル全体で齟齬を生じる。リングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカスが象を使ったショーをやめたことには意味があったと思うが、それに替わる目玉がなければ集客に大きなダメージを受けることも必然だった。
ブルー・オーシャンがレッド・オーシャンに変わる時
ブルー・オーシャン戦略で紹介されている事例は、サーカスからワイン、戦闘機、フィットネスクラブ、ジェット機のシェアサービスなど多岐にわたる。これらは必ずしも成長している業界ではなく、サーカスに至っては衰退産業と見られていた。
ブルー・オーシャン戦略で紹介されている「エクセレントカンパニー」と「ビジョナリーカンパニー」は、大成功を収めた企業を取り上げた書籍だ。その時々で成功を収めた企業のビジネスモデルはこれらの書籍で賞賛されたが、発刊後に多くの企業が変調をきたした。
仮に急激な成長を遂げる企業があったとしても、それはその企業のビジネスモデルが優れているからではなく、単純に属している業界が成長しているだけかもしれない。成長している業界にはライバルが次々と参入し、最後は多くの企業が同じような商品を出して価格競争に陥るかもしれない。
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