日立・三菱重工が挑む「原発輸出」のジレンマ 英国政府の支援拡大は日立への福音なのか…

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この影響もあり、ホライズンの買い取り価格は決まっていない。先行案件よりも引き下げられるのは確実視されている。総費用が増加する中、採算が取れる電力料金は設定されるのか。

「買い取り価格が高く決まっても、市場価格との差が広がれば絶対に引き下げられる」という懸念を示すのは、海外事情に詳しい原子力推進派の財界人だ。

もともと原発は初期投資こそ高いが、燃料費は高いガス火力はもとより、石炭火力よりも安い。ただ、風力など再生可能エネルギーによる発電は、燃料費がかからない。足元の原油高は追い風だが、再エネの電力が普及しているため、電力市場には下方圧力がかかり続ける。

あきらめられない両社

採算性が見えないのは三菱重工の案件も同じだ。

トルコ案件のFSに参加してきた伊藤忠商事は、決算発表の場で正式に撤退を表明した。岡藤正広会長は「費用が倍になっている」と理由を説明。「(三菱重工は)降りられないから大変だ」と同情を寄せた。

安定的な発電能力や、CO2排出の少なさから、一定の原発が必要という考えはわからなくはない。そうした観点から英国もトルコも原発新設を進めてきた。ならば、当該国が電力料金を含めて原発の成り立つスキームを作るのがスジだが、現実は心もとない。

ビジネスにリスクがあるのは当然でも、海外での原発事業はリスクとリターンのバランスが取れていないように思える。

それでも日立も三菱重工も原発輸出をあきらめられない。国内で原発新設の望みが薄い中、技術を含めて原子力事業を維持するために海外で原発を造るしかない、という強迫観念がある。

東芝や仏アレバが海外原発で会社解体の危機に追い込まれた記憶はまだ新しい。日立の中西会長は原発事業について「原子力は一度手掛けた以上やめられない。廃炉の面倒を誰が見るのか」と繰り返してきた。やめられない事業のためにという気持ちがある中で、冷徹な判断ができるのか。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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