格差の超簡単な解決策は最低賃金引き上げだ 「適正水準は1300円」とアトキンソン氏

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先に紹介した英国の例と同様に、日本でも最低賃金の引き上げには、中小企業の経営者から反対の声があがることでしょう。しかし、私に言わせれば、年収170万円の労働者をこきつかえないとやっていけないような会社には、そもそも存続する意味がありません

こういう会社に貴重な労働力を浪費させるのは、これから急速に生産年齢人口が減少する日本にとってはマイナスでしかありません。もっと高い年収の払える、生産性の高い会社に移ってもらうべきなのです。

「おカネじゃない」という妄想

日本では「サービス料を払ってもらえない」「お客に価格転嫁ができない」などを理由に、 最低賃金の引き上げができないという経営者の声を聞くことがあります。また、「日本人はおカネばかりを目的に働いているわけではない」「だから賃金を上げる必要はない」とうそぶく経営者までいます。私に言わせれば、まったくのナ・ン・セ・ン・スです。

最低賃金には理論値があり、しかるべき水準であるべきなのです。しかし、日本では政府が(理論値の存在を知ってか知らずか)、理論値をまったく無視し、理論値を大幅に下回る最低賃金を設定しています。その結果として、国民が理論的にもらうべき水準の給料がもらえていないのです。

「デフレによって価格が下がって、何が悪い」「見返りを求めないおもてなしこそ日本独特な文化で、すばらしい」などと言う人がいます。これはただの妄想です。

実際には、国はインフラの整備・維持、年金・医療費などの社保障の負担を負わなくてはいけません。見返りを求めない、最低賃金が低い、価格転嫁できないなどの理由で国民の所得が増えなければ、払うべき税金を納められない状態が続くだけです。その結果、国の借金としてその分が蓄積されていきます

「日本には、おカネ以外に見えない価値がある」「日本型資本主義だから」と非現実的なことを言う人がいまだにいます。しかし、他の先進国並みにインフラや社会保障制度が整備されている日本では、これらの「見えない価値」はただ単に、国の借金という「見える形」で積み増されていくだけです。非現実的な「日本型資本主義」のコストは、国の借金という形できちんと勘定されています。日本人の甘え・妄想・非現実性が、国債という形でそのまま積み上がっているのです。

経済合理性を否定する「論者」が多いこの国では、この事実が理解されていないのです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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