パナの完全復活を阻む「テスラ」と「中国」の壁 久々の好決算に影を落とす2つのリスク要因

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EVの最重要部品である電池メーカーにとって、一見大きな勝機に見えるが、大きな落とし穴もある。明文化されている訳ではないが、NEVを販売する自動車メーカーが政府からの補助金を受けるには、政府から「お墨付き」をもらった電池メーカーの製品を採用することが必要だ。

現状、中国電池メーカーの電池を採用した自動車メーカーには補助金が支給されるが、パナソニックをはじめ、韓国のサムスンSDI、LG化学など、外資の電池メーカーで補助金対象になっているところは皆無だ。

電池出荷量では中国メーカーが世界最大手に

中国政府の保護主義に外資が阻まれる中、中国メーカーは着々と力をつけてきた。代表格が、福建省に本社を置くCATLだ。同社は、2017年度の電池出荷量でパナソニックを抜き世界トップシェアに浮上している。

CATLはすでに、独BMWと戦略的パートナーシップを締結。NEV規制のスタートまでに、電池の調達先を決めなければならない日系メーカーとの提携も視野に入れる。同社の幹部は、「すでに日産自動車、トヨタ自動車とは話を進めており、戦略的パートナーシップを検討しているところもある」と明かす。

パナソニックは、今年3月から中国・大連の新工場で車載電池の量産を開始したが、補助金対象メーカーではない以上、NEV規制は勝機どころか、中国市場の成長を阻む要因にもなる。

パナソニックの大連工場(写真:パナソニック)

現在は、ホンダの北米向け電池を輸出している状況だ。中国市場に向けては、当面(NEV規制の対象にならない)HV向けの電池を作り、「NEV規制対象の電池は、まず日本で試作ラインを作り、量産ができるか見極めてから中国工場で展開していく予定」(津賀社長)と、慎重に進まざるを得ない状況なのだ。

ただ、中国市場での外資規制や補助金政策は刻々と変化しており、将来的には補助金支給自体が廃止されるとも見られている。いつ、パナソニックにとってのチャンスが訪れるかはわからない。先の読みにくい市場での柔軟な対応が求められる。

パナソニックは今2019年3月期も、売上高8兆3000億円(前期比4%増)、営業利益4250億円(同11.7%増)と好調を見込む。特に電池事業は売上高で7580億円(同35%増)、営業利益は2.6倍の291億円と、大幅な成長を見込んでいる。

液晶テレビの失敗から見事立ち直りつつある同社の前に立ちはだかる、米テスラと中国のリスク。どちらも、自社の努力では解決できない問題だけに、社長就任7年目に突入する津賀社長が肩の荷を降ろせるのはまだ先だ。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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