「妊娠出産の心得を書いたら注目されて、出版や講演のお話をいただくようになって。その中にセックス本の企画があったんですけど、まさか売れるとは思いませんでした」。そうして出版した著書は瞬く間にベストセラーとなり、思いがけぬ注目を浴びた宋には取材・執筆依頼が殺到した。
女性のセックスを語る本を、当時30代の現役女性産婦人科医が、しかも本名で出す。この日本社会で女性が自分から性を語るとなれば、リスク懸念を含めていろいろな感情が交錯するだろうに、怖さはなかったのか。「本名で出たのはペンネームの発想がなかっただけ。ペンネームにしておいたら良かったと思うときもなくはなかったけれど、私はあのとききっと、実在する医者が正面切ってこういう話を発信することのメリットを取ったんだと思う」。宋はまっすぐな目で言った。
海外の医師はセックスを医学として学んできていた
「私、人から性的対象と見られにくくて」と宋は笑う。生々しさがないゆえか、研修医時代から「ほかの先生だと聞きにくいんだけど、宋先生なら聞ける」と患者から性行為にかかわる相談を受けることが多かった。ところが、それは医学部でもまったく教えられない。性交痛を訴える患者のために医学書を調べても、子宮内膜症が載っているのみだ。
「性交痛の理由が、本当にそれだけなの?と。せっかく患者さんが相談してくれたのに『ムードとかもあるんじゃないですか』なんて、そこだけ自分の経験で語らなきゃいけないのはおかしいと思って。でも過去の研究をさかのぼったら、性の仕組みを扱ったものがいっぱいあったんですよ」。日本産科婦人科学会に加えて日本性科学会に所属し、2009年にイギリス・ロンドン大学病院へ留学した。そこで出会った各国の医者は、皆それまでの専門教育の中で性行為を医学として学んできていた。日本でも、性を興味本位の偏った切り口でもなく無味乾燥を装った性教育でもなく、皆が知るべきだと思った。
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