カイゼンは業務か、それとも自己研鑽か--『QC』を業務と認めるトヨタ過労死裁判の波紋
頂点に君臨するトヨタ 影響は日本全体に及ぶ
トヨタが労務政策の転換に踏み切った意味は大きい。さっそく追随したのが、トヨタグループの部品会社だ。グループのトヨタ紡織は、トヨタと同様、月2時間の上限を廃止するべく、社内のガイドラインを変更した。
トヨタがQC活動を開始したのは1960年代半ばごろのこと。ラインが止まった後の勤務時間外に8~10人単位でグループをつくり、工程見直しや工具の使用法などのアイデアを出し合って、カイゼン王国を築いてきた。徹底して無駄を省く「トヨタ生産方式」も、こうした地道なQC活動なくしては成立しなかっただろう。
QC活動という名のサービス残業によって支えられてきた最強トヨタの現場。今回の労務政策の転換によって、今後、残業代の支払いが増えれば、原価低減を武器に莫大な利益を上げてきたトヨタの労務コストは、確実に上昇することになる。
そんなトヨタの危機意識を表す資料がある。「QCサークル活動の時間の取り扱いについて」。トヨタの管理職に配られた1枚のペーパーだ。
そこに並ぶのは、「会合はすべて業務扱いです」「ただし、会合は原則として月2時間とします。月2時間で完了しなければ、翌月に繰り越して活動してください」「活動が過度にならないよう、上司が指導してください」「自分達で行う勉強会は、職場では実施できません。工場の敷地外で行ってください」といった指示の文言。
そこには、QCサークル活動が業務の一環であることを周知徹底すると同時に、何とか残業代の膨張を防ごうとする会社側の思惑も見え隠れする。
だが、トヨタは日本のモノづくり産業の頂点に君臨する存在。影響はもちろんトヨタグループ内にとどまらない。トヨタが国内だけで5000のQCサークルを持つのに対し、日本全体では製造業を中心に3万以上のサークルが存在するとされる(日本科学技術連盟調べ)。
トヨタグループ以外の企業を見渡しても、似たような活動を行っている会社は多い。たとえば、同業のホンダでは「NH(ニュー・ホンダ)活動」と称して、通常は月4時間、成果の発表月には月8時間まで、残業代を支給。新日本製鉄ではQC活動に対する助成金として、自己申告に基づき、1時間1400円を上限なしに支払っている。
トヨタに限らず、モノづくり企業に深く根付き、ニッポン製造業の世界的躍進を支える原動力となってきたQC活動。それにかかわる長時間にわたるサービス残業によって命を失った、トヨタ・内野健一さんの過労死認定判決は日本企業の経営者全員に、重い課題を突きつけている。
(週刊東洋経済)
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