核実験凍結声明ににじむ北朝鮮の「真意」 重大問題については触れていない

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北朝鮮の核戦力がどれほどの信頼性を持ち、どれほど信用できるものかについては評価が分かれている。ただ、少なくとも北朝鮮の国営メディアはこの半年間、このようなスタンスに立った喧伝活動を一貫して行っている。

国内向けという意味では、総会は金正恩氏が2013年に始まった核開発と経済建設の「並進路線」を総仕上げする場所だった。総会は、核兵器とハイテク経済の同時開発の成功を絶賛する言葉であふれていた。これは海外向けの派手なプロパガンダであるだけでなく、北朝鮮政府の政策が機能していることを国内に示す場でもあったのだ。

非核化に応じるとは言っていない

まず大切なのは、今回の声明が限定的なものであると認識することだ。これは拘束力を持った協定でもなければ、米国から抗議されている兵器システムを突如として完全撤廃するものでもない。金正恩氏は、核実験場の完全廃棄に合意したわけではない。非核化に応じると言ったわけでもない。拘束力を持つような何らかの協定に合意したわけではないのだ。

金正恩委員長は、核実験凍結を宣言した。その真意は?(写真: KCNA)

採択された決定書は、朝鮮労働党における内部的なものであり、そこには何の拘束力もない。細心の注意を払って組み立てられた国際協定によって決定内容ががっちりと固められない限り、自由に覆すことのできる代物なのである。

北朝鮮の声明は最も好意的に解釈したとしても、ICBMの追加実験や地上での核実験は現時点で必要ない、と述べているにすぎない。非核化ではなく、核開発を一時停止すると勝手に約束しただけだ。もちろん、これは軍備管理に向けた第一歩となる可能性があり、悪いことではないが、核戦力の完全撤廃と勘違いするようなことがあってはならない。

北朝鮮との軍縮条約など、将来の関係改善に向けた足がかりになり得るものではあっても、拡大解釈を試みたり、内容をことさら大袈裟に考えたりするべきではないのだ。声明がうたう核開発や一部ミサイル実験の中止には何の拘束力もなく、検証することができない。

北朝鮮が宣言した内容は、これから行われる米韓と北朝鮮との間の首脳会談で取り交わされることになる何らかの協定や取り決めの土台になると見られるが、声明は声明でしかない。核実験場に対する実地調査やミサイル実験における地理的制約など、検証を可能とする仕組みがなければ、合意内容は公表と同時に破棄されてもおかしくない。

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