フリーゲージ絶望「長崎新幹線」膨らむコスト 新大阪乗り入れへ「地下新ホーム」案も登場

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さらに、地方負担分だけでなく国の財源確保も大きな課題だ。整備新幹線は、現在建設が進む路線以降の財源の見通しは立っていない。昨年ルートが決定した北陸新幹線の敦賀―新大阪間は、現状では北海道新幹線が札幌延伸開業する2031年度以降の着工にならざるをえないことから、沿線自治体や財界などは国に財源の確保と建設の前倒しを求めている。

敦賀―新大阪間の建設費は2兆1000億円と試算されている。もし新たに長崎ルートが全線フル規格で整備されることになれば、こういったほかの新幹線との財源の配分も課題になるだろう。北陸新幹線沿線のある自治体関係者は「(長崎ルートがどうなるか)まだ結論に至っていないので、その点はなんとも言えない」というものの、ほかの地域にも新幹線整備を求める声はある。財源確保や着工順序をめぐっての駆け引きが展開される可能性はありそうだ。

新大阪駅改良費用は試算に含まず

今回、国交省が新たに打ち出した、新大阪駅に山陽新幹線の地下ホームを新設するなどの「新たな取り組み」も、具体的な検討はこれからだ。

最高速度の遅いFGTとは異なり、フル規格やミニ新幹線は技術的には山陽新幹線に乗り入れ可能と判断されているものの、JR西日本は「新大阪付近の増発は難しいだろう」との考えを示しており、長崎ルートとの直通列車を運行するとしても、現行の九州新幹線(鹿児島ルート)直通列車から本数の一部を振り向ける形となる可能性を示唆する。

「新たな取り組み」はこの課題を解決し、長崎ルートからの新大阪乗り入れを実現するための方策だ。新大阪駅の地下には北陸新幹線やリニア中央新幹線も乗り入れる予定のため、「今後工事はしなければならないところ」(国交省)。この機会に合わせて地下新ホームを整備し、高速鉄道網の一大結節点とする将来像を描く。

だが、建設費がどの程度かかるのか、費用負担をどうするのかといった検討はこれから。今回示された投資効果の「3.3」という数値も、この「新たな取り組み」が実現して新大阪まで直通した場合の便益を想定する一方でその費用は含んでいない。国交省は「このプロジェクトは(長崎ルートとは)別途考えているもの」だというものの、長崎ルート沿線が求める関西直通のために新ホームが絶対に必要ということになれば、この費用についてもクリアしなくてはならない。

武雄温泉―長崎間の新幹線が「離れ小島」になったまま、乗り換えの必要なリレー方式が続くことは避けたいのが関係者の一致した考えだろう。だが、FGT以外の方法で整備するとなれば、方法によって差はあるものの一定の追加投資は避けられない。財源や費用負担をどうするか、実際にいつ工事に着手できるのか。与党検討委は今回のJR九州のほか、佐賀県や長崎県から意見を聞き、夏ごろまでに結論を出す方針だが、整備手法が決まったとしても先が見通せない部分は極めて多い。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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