私は2013年にアベノミクスが始まった当初から、「アベノミクスの恩恵を受けられるのは、全体の約2割の人々にすぎないだろう」とざっくりとした感覚で訴えてきましたが、その後のメディアの世論調査でも、おおむねそれに近い結果が出ていたということは興味深い事実です。私がなぜ約2割の人々だといったのかというと、富裕層と大企業に勤める人々の割合が大まかにいって2割くらいになるからです。
アベノミクスが円安によって株価や企業収益を高めるかたわらで、輸入品の価格上昇によって人々の実質賃金を押し下げるという弊害をもたらすことは、最初からわかりきっていたのです。要するに、普通に暮らす残りの8割の人々は、未だにアベノミクスの蚊帳の外に置かれてしまっているというわけです。
私は地方へ仕事にいくたび、その地方の景況感をいろいろな立場の方々にうかがっているのですが、2014年~2017年にかけておしなべて共通していたのは、大企業に勤める人々が「景気はよくなっている」と実感していたのに対して、その他の多くの人々は「景気なんてよくなっていない」とあきらめてしまっていた、ということです。
「景気がいい地域」なんて本当にあるのか
さらに私は、最寄り駅から講演会場などまでタクシーに乗車する機会があったときには、運転手さんに「景気はどうですか?」と必ず聞くことにしていますが、その間、誰ひとりとして、「景気がいい」と答えた人はいなかったのです。東京であろうが、大阪であろうが、名古屋であろうが、返ってくる答えは、一様に芳しくないものばかりでした。中国や九州などでは不況としか思えないような答えが返ってくる有り様です。正直なところ、これが日本経済の掛け値なしの実態なのです。
そのような好ましくない状況の中で、オリンピック前後に不況が到来したら、どうなってしまうのでしょうか。確実に言えるのは、富裕層と呼ばれる人々よりも普通に暮らす人々のほうが、生活水準が著しく悪化するのが避けられない、ということです。
これは2008年の世界金融危機後の米国や欧州で顕著に見られた現象ですが、そういった現象から未だに脱却できていないからこそ、米国ではドナルド・トランプ大統領が誕生したのであり、欧州ではポピュリズムが台頭して各国の政治が不安定になっているのです。米国は経済成長という視点で見れば間違いなく優等生になりますが、株主や企業の利益ばかりが優先されてきた結果、国民生活は置き去りにされてきてしまったわけです。
私は経済成長率の数字そのものより、その成長率の中身のほうがはるかに大事なのではないかと考えています。そして、経済指標の中でいちばん重きを置くべき指標は、決して経済成長率の数字そのものではなく、国民の生活水準を大きく左右する、実質的な所得ではないかとも考えています。
拙書『日本の国難』においては、今後5年のスパンで考えた世界経済や日本経済の方向性だけでなく、10年後~20年後までを見据えた、日本の経済、雇用、企業、賃金がどのようになるのかについて説明しています。ぜひご覧いただければ幸甚です。
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