タイガーマスク"伊達直人"が本名で語る意義

正体を明かした会社員が見つめる過去と今後

そんな河村さんが支援活動を通じて、職員や子どもたちと接する中で感じていたことがある。それは施設にいる間よりも、施設を出る際の支援の重要さだった。

「養護施設にいる間は、衣食住は何とかなるし、学校や塾にも行けます。けれど施設を出た瞬間、すべて自己負担になってしまう。そもそも施設に入っている子どもたちは、虐待や育児放棄を受けた人がほとんど。施設を出た後、親に頼れません。だからこそ、家賃や家財道具、免許などの支援を拡充することで、施設を出た後の社会生活がしやすくなるのです」

子どもが児童養護施設で過ごせるのは、原則18歳まで(状況に応じて22歳まで)。通常、18歳を迎えた人は、進学や就職、留学、フリーターをしながら夢を目指すなど、さまざまな選択肢から進路を選ぶ。しかし養護施設で育った子どもたちの進路は、支援がないと、「住み込みOKの職場で就職」など、ごく限られたものになってしまうのだ。

ある施設を出て、大学に進学した3人のうち、全員が半年で退学してしまったという事例を河村さんは明かす。奨学金の返済に伴う負担の大きさを考えたとき、とても続けられないと判断した結果だという。中には生活に困り、犯罪に手を染めたり、風俗で働くようになってしまったりする子どもも少なくないという。

情報発信力はすべてに勝る

実は河村さんが正体を明かしたのは、行政を巻き込んで、この問題の解決に取り組むためだった。個人で支援活動を行うのは限界がある。実際に2016年1月、縁あって世田谷区の保坂展人区長と意見交換を行った河村さんは、行政ならではの支援の必要性を強く実感した。

「行政ならではというのは、継続できるということです。個人や団体だと、やめたら終わりですよね。でも一度制度を作ってしまえば、トップや担当者が変わっても続けられる。始めることより続けることが大事です。だからこそ、支援の制度化を実現したかったんです」

では、どうすれば行政とつながれるのか。河村さんが考え、選んだ手段が、リングで正体を明かすことだった。数年前、社会現象となったタイガーマスク運動の発起人が、リングで正体を明かせば話題になるはず。そして子どもたちや支援活動への思いを訴えれば、行政を動かし、実現したい支援ができる、と。

当日は、プロレス大会では異例のマスコミ約30社が訪れ、同日のNHKのニュースでもトップで報じられた。翌日には前橋市役所から、「市長が会いたがっています」と河村氏に連絡があった。そして市長や市の職員と対面した河村さんは、養護施設を出た後の支援の重要さを訴えかけ、「タイガーマスク運動支援プロジェクト」が実現したのだった。

経営で大事な要素は「ヒト・モノ・カネ・情報」といわれる。しかし河村さんは、この4つよりも「発信力」を重要視しているという。悪名は無名に勝るというが、どんなにすばらしいことを始めても、知られなくては意味がないからだ。

「情報発信力はすべてに勝ります。だからこそ、自分がしたいことを世の中に広めるために、僕は伊達直人を使ったのですね。間違うと単なるパフォーマーととらえられてしまうので、バランスが難しいですが」

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