キリンの技術を融合して抗体医薬でトップ目指す−−松田譲・協和発酵キリン社長
キリンファーマと合併し「協和発酵キリン」が誕生した。
世界一のバイオファーマを目指す。抗体を100倍活性化できる協和発酵工業のポテリジェント技術と、動物実験のスピードを速めるキリンのKMマウス技術を融合して抗体医薬の開発を急ぐ。1日も早く画期的な新薬を出していきたい。
まだ普及が進んでいない抗体医薬に力を入れる理由とは。
抗体医薬は、従来の低分子薬では対応できないガンなどの難治疾患領域で切望されている。2011年には市場規模4兆円に達するという試算もあるほどだ。しかし構造が複雑で、効き目をコントロールするのが非常に難しい。高度な技術や研究設備が必要なため、参入障壁が高い。しかも現状では高額で、抗体医薬を用いたリウマチ治療には数百万円かかる。
協和発酵のポテリジェント技術は抗体の効き目を強くする分、薬価を抑えられる。これまで高額で治療を受けられなかった患者にとって選択肢が広がるはずだ。協和発酵の創業者・加藤辨三郎(べんざぶろう)は戦後に結核が蔓延したとき、資本金の3倍もの資金を投じて日本に「ストレプトマイシン」を導入した。抗体医薬への取り組みは創業精神にも通じる。
自主路線でなく、あえて統合を選んだ理由は。
実は、私は今でも残念に思っていることがある。研究員時代、タンパク質をリン酸化する酵素の阻害剤を見つけ、世界の名だたる製薬メーカーが注目した。それなのに協和発酵は薬にできなかった。なぜか。組織が戦略的に動かなかったからだ。研究欲を満たすだけの自前主義ならいらない。どんなにすばらしい技術でも、医薬品として患者さんに使われてこそ意味がある。早く薬を出すなら、強い相手と連携したほうがいい。
なぜ統合相手に医薬大手でなくキリンを選んだのか。
キリンはビールの発酵技術を応用して医薬事業を立ち上げた。スケールの大きな製造技術を持ち、補完性が高い。発酵技術を基礎とする点で企業文化も似ている。統合について社内調査したところ、強く賛同する社員が7~8割もいた。むしろ心配になるほど違和感がない。統合を目的とせず、世界トップレベルを目指すことに主眼を置く。
統合の具体的な成果はいつ頃見えそうか。
次の新薬となる最有力候補は血液ガン治療薬の「KW-0761」で2012~15年に発売したい。これから毎年4品目、5年で20品目のパイプライン(新薬候補リスト)入りを目指す。その中で製品化するのはよくて1~2品だろう。いかに充実したパイプラインをそろえるかの経営判断が求められている。
(前野裕香 撮影:吉野純治 =週刊東洋経済)
まつだ・ゆずる
1948年生まれ。77年東京大学大学院博士課程修了後、協和発酵工業入社。2000年医薬総合研究所所長などを経て、03年社長就任。08年10月より協和発酵キリン社長に就任。
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