JR西「東海への遠慮」が台車トラブルを拡大? 新幹線台車亀裂の「遠因」を有識者会議が言及

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また、JR西日本はJR東海と比べ、保有する列車が少ない。列車を途中で止めて回送すると、代わりの列車をJR東海から借りなくてはいけないケースも出てくる。JR西日本の指令員はこうした事情から車両を止めることに躊躇し、運行を継続したという可能性はないのだろうか。

「保守担当者が自信を持って『止める』と言えなかったのは、指令員の聞き方にも問題があった」と、社外有識者の向殿政男・明治大学名誉教授は指摘する。指令員から「走行に支障があるか」と問われると、保守担当者は「支障がある」とは答えにくい。指令員は無意識のうちに列車を止めてはいけないという意識が働いてこのような聞き方をしたのかもしれない。

新幹線は東京から博多までつながっている

当初は社外有識者も両社の関係性が今回のトラブルに関係しているのではないか、という懸念を持っていた。今回の提言書には過去4回にわたって開催された有識者会議における社外有識者からの意見も掲載されており、その中には「JR東海区間に遅れを持ち込むのはいけないという雰囲気があるのではないか」「JR東海とJR西日本の関係も文化の違いにより遠慮がありそうである」といった発言がみられる。

しかし結局、「今回のトラブルに大きく影響したということはない」(安部教授)として、両社の関係性について、有識者会議の提言では最終的に触れられることはなかった。

東京都内にある新幹線総合指令所。JR東海とJR西日本の指令員が共同で新幹線の運行指令業務を行っている(2010年記者撮影)

さらに社外有識者の意見の中には「JR東海とJR西日本が合同で訓練を行ってもよいかもしれない」というものもあった。

もし、両社の安全対策のスキルに差があるなら、合同訓練によって解消するという案は検討に値する。ただ、これも「やらないよりはやったほうがいいが、強いてやるという話でもない」(安部教授)として、提言の中には含まれない。

今回の提言は、あくまでJR西日本の内部で起きた問題として、JR西日本だけに向けた再発防止策という位置づけ。「JR東海にヒアリングしたかった」(安部教授)というものの、結局、ヒアリングは行われなかった。

しかし、東京と博多の間を直通運行する新幹線は、利用者からみれば会社の違いは関係ない。安全運行を万全なものとするためには、JR東海も含め、JR西日本という会社の壁を越えた検証も必要なのではないだろうか。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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