「ユーロトンネル」はバスを積んだ列車が走る 英仏海峡下を走るのは高速列車だけじゃない

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貨車に入る瞬間をバス車内から撮ってみた(筆者撮影)

ル・シャトルは車載用貨車、および車が貨車に入るための出入り用の車両が連結されている。乗用車やバイクを載せる貨車は2階建てとなっている。これらが全長700mを超える長大編成となっている。自動車はル・シャトルの最後尾から入って、順々に前に向かって走り、前方が詰まったところで停める。雰囲気は細い地下駐車場に入って行くような感じだ。自動車が所定の位置に停車し、車両連結部のドアを閉めてから発車。その後列車は海峡を潜り、対岸に着いたらエンジンをかけ、先頭まで走ってホームへ出る、といった流れとなる。

乗客は海峡横断の間、自分のクルマや乗って来たバスの中で過ごしてもいいが、貨車の通路や空いている場所に出て(ただし、いすはない)おしゃべりなどしていても構わない。トイレも設けられている。走行中の35分がなんとも退屈なので、バスの乗客たちも「何か飲食物でも売りに来てくれたらうれしいのにね」と語り合っていた。

トンネルの持ち主は誰か

では、ユーロトンネルは誰の持ち物なのだろうか。トンネルはゲットリンク(Getlink)という会社が運営している。なんとも意味不明なネーミングだが、元々の会社名である「グループ・ユーロトンネル」の頭の文字(GとEとT)をそれぞれ取ったもの。ゲットリンクの名は2017年11月から使っている。

同社は英仏のゼネコンや銀行などの出資により設立された。英仏両国政府からの出資は合わせて3%しかなく、ほぼ民間会社だ。主な収入はル・シャトルの運賃で、これが売上高の半分以上を占める。そのほかユーロスターのトンネル使用料と貨物列車による収入がある。

一般の人々の間ではユーロスターのおかげで「高速列車で英国が欧州大陸と陸続きとなっている」という印象で語られることが多いが、実は、トンネル経由で海峡を渡る利用者数で見ると、ユーロスターよりもル・シャトルの方が多い。

こうしてユーロトンネルの「使い道」を見て行くと、高速列車だけでなく貨物列車、そしてクルマ、バイクやバス、トラックをも含めたあらゆる陸上交通機関をすべて収容できる作りとなっている。つまり、高速列車のユーロスターだけを優先して所要時間の短縮を進めるのではなく、貨物列車やル・シャトルの速度とのバランスも取りながらすべての利用者にとってwin-winな運行を行なっているというわけだ。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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