LCCで初歩的ミスが相次ぐワケ ジェットスター、エアアジアで検査漏れが判明

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急ごしらえで生じた歪み

初歩的なミスがなぜなくならないのか。その要因として、ジェットスターの拙速ともいえる事業展開が関係している可能性がある。同社は当初、12年12月までの就航を予定していたが、同じ成田空港を拠点とするエアアジアが同年8月に就航すると発表したことを受け、7月に繰り上げてスタートした。だが、成田空港の渋滞や夜間の門限、天候不順など予期せぬ要素に攪乱され、就航後の約5カ月で75回もの欠航を起こした。

機材の拡大戦略も急激だった。今年中に20機体制(昨年12月時点で7機)を構築する計画だが、これはほかのLCCに比べてもかなりのハイペース。格安航空会社の草分けであるスカイマークが20機体制にするまでに10年の歳月がかかったことを考えても、ジェットスターの規模拡張がいかに急であるかがわかる。昨年、今年の厳重注意案件との因果関係は定かではないが、こうした拡大戦略が度重なるミスの遠因となった可能性はゼロではなさそうだ。

厳重注意に至った状況を説明する、鈴木社長(中央)らジェットスター・ジャパン幹部

もっとも、収益化に向けて機材数の増加は避けて通れない。本社費用など固定費を吸収するために、LCCの黒字化には最低でも10機程度の機材が必要とされ、機材数が増えるほど採算は向上していく。一定規模の単一機材(同一の機種)をいかに多頻度運航して有効活用できるかが、LCCを運営していく上での肝だ。

ただ、事業としての採算性と、定時性や安全性を両立することは、運賃を2~3倍高く取れる大手航空会社に比べてはるかに難しい。その高いハードルを越えなければならないのは、ジェットスターに限ったことではなく、LCCに共通する課題だ。そうした環境下で、整備部門に対して十分な人員の手当てができていたのか、疑問の余地は残る。ジェットスター・ジャパンの鈴木みゆき社長は、「独自の体制、プロセスが充実していないことが課題」と語った。自浄作用がどこまで働くか、LCCは正念場を迎えている。

(撮影:今井 康一)

桑原 幸作 東洋経済 記者
猪澤 顕明 会社四季報オンライン 編集長

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いざわ たかあき / Takaaki Izawa

1979年生まれ。慶應義塾大学卒業後、テレビ局勤務を経て、2006年に東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、ニュース編集部などに在籍。2017年国内のFinTechベンチャーへ移り、経済系Webメディアの編集長として月間PVを就任1年で当初の7倍超に伸ばす。2020年に東洋経済へ復帰、「会社四季報オンライン」編集長に就任。

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